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【書籍版6巻発売中!】怪物たちを統べるモノ ~能力『プレイヤー』使いは最強パーティーで無双する!~【コミカライズ2巻発売中!】  作者: Sin Guilty
第四章 『虚ろの魔王』編 前半

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第260話 『模擬戦 鬼人』⑩

 しかも目で捉えられきれないフレデリカをつかまえるために、安易に巨大化してしまったことも裏目に出た。

 人間大のサイズのままであれば、うっかり全身を吹き飛ばして殺してしまう事を警戒せねばならなかっただろうが、今のサイズであればどこかを集中攻撃すればその心配はまずしなくてもいいとフレデリカは判断している。


 酷い話ではあるが、最悪腕一本、脚一本を消し飛ばしてしまったとしても、死すらも凌駕する『癒しの聖女(ジュリア)』がいてくれる限り深刻なことにはならない。


 ゆえにフレデリカは即断し、己の気付きを全力で実行する。


 つまり巨大化したルクレツィアの焔の躰でも捕捉されないだけの安全距離を保ったまま、その巨大な左腕だけに攻撃を集中させたのだ。


 万が一にも捕まることが無いように高速機動を以て一ヶ所には止まらない。

 移動しつつの連打ではあるが、今のフレデリカの性能をもってすれば、その炸裂音は連続し、聞くものの耳を(つんざ)くような巨大な振動音となる。

 

 その結果、巨大な焔の躰と化したルクレツィアの左腕はどれだけ再生しても片っ端から消し飛ばされ、まるで欠損したかのような状態を強制的に固定される。


 だがそれとても再生が追い付いていないだけで、フレデリカが鬼の連打をやめれば即座に焔の腕が生え、何事もなかったかのように再生される。

 実際に一度連打を止め、その事実を確認する余裕すら今のフレデリカは持っている。


 なぜならば、すでにルクレツィアが耐えられなくなっているからだ。


 その美しい顔も焔と化しているため、その表情を読むことは難しい。

 だがもしも今ルクレツィアがいつもどおりの状態であれば、歯を食いしばり、それでも涙と涎を垂らして悶絶していることが誰にでも理解できるだろう。


 もはや攻撃が効いていない()()をする余裕などどこにもない。

 凄まじい痛みに支配され、その場に崩れ落ちてまともに動くことすらも出来なくなっている。


 いや確かにその存在を消される――殺されるような痛痒(ダメージ)を一切受けていないことは一方の事実ではある。

 フレデリカが攻撃の手を止めれば一瞬で焔の腕が再生されることからも、それは間違いない。


 だからこそルクレツィアは、永遠に終わらない苦痛に晒され続けているのだとも言える。


 『全竜(ルーナ)』が冒険者ギルドで行った、ギルド『百手巨神(ヘカトンケイル)』のメンバーたちを高所から落としては治療を繰り返した拷問と本質的には同じ。

 つまり『焔躰廻遷』は痛痒(ダメージ)の一切を無効化できても、その際意識が感じる痛覚を()()()遮断することまでは不可能なのだ。


 実際の肉体ではなく、魔力による焔の躰に変じているからにはいくらかは緩和されている。

 だからこそある程度であれば、なんとか耐えることもできるのだ。


 だが左腕を引き千切られ続けているような痛みを与えられては耐えられるはずもない。

 すでにルクレツィアは戦闘継続の意思を完全に放棄し、その場に蹲って痛みを噛み殺すことしかできなくなっている。

 そのまま巨大化していた焔の躰はみるみる元のサイズへと縮み、徐々に焔から普通の身体へと戻ってゆく。


 かなり強力な術ではあるが、継戦可能時間がごく短いこともまた弱点の一つだろう。


「御免なさい。大丈夫ですか」


 自らの焔で身に付けていた和服を燃やし尽くしてしまっているルクレツィアに、フレデリカが脱いでいた自身のサマー・ニットをかけつつ声をかけている。


「は、はい……なんとか……」


 その表情といい声の調子といい、とても大丈夫ではないのだろう。

 だが元に戻ったルクレツィアの左腕は健在であり、痛みだけがまだ残っている状態なのだ。


 フレデリカは申し訳ないとは思いつつも、大けがをさせないままに『焔躰廻遷』を十全に駆使させた上でその弱点も明確化することができたので、模擬戦としてソルの期待に応えるためにはやむを得なかったと判断してはいる。


 だが自分はソルに与えられた能力で無傷無痛でありながら、一方的にルクレツィアに苦痛を与えたことには忸怩たるものを感じずにはいられないのだ。


「ありがとうフレデリカ。ルクレツィアさんには申し訳なかったけど、おかげで改善点も見えたから赦して欲しい」


 それを理解できているソルはフレデリカに感謝の意を伝えると同時に、ルクレツィアに無理を強いたことを謝罪する。

 それは絶対者ゆえの上から目線のものではあろうが、言葉だけではなくきちんと実利も伴う謝罪でもある。


 別に『全竜(ルーナ)』だけではなく、ソルもまた冒険者の流儀として、実利を伴わぬ言葉だけの謝罪になどなんの価値もないと思っているのだ。


「――と、とんでもありません!」


 冗談ではなく痛みを吹き飛ばして、ルクレツィアがソルに平伏する。

 どれだけの痛みを伴おうが、それが絶対者にとって有効なものであったのであれば謝ってもらう筋のものではないのだ。


 極端な話、ここでルクレツィアが殺されたとしても、それを対価にソルが亜人種の安寧を約束してくれえるというのであれば安い買い物だと、ルクレツィア本人でさえそう思うのだから。


「でも痛いよね……代わりというわけじゃないけど、より完成形に近づけられると思う」


 ソルは自身には『プレイヤー』の能力を適用することができないので、怪我との付き合いはもうずいぶんと長い。

 他の仲間たちがH.Pで無傷な中、まだ『黒虎』が戦闘に手慣れていない初期段階においてはそれはもうひっきりなしに怪我をしていたし、中には命にかかわるレベルの大怪我をした経験もある。


 だからこそ、自分のために痛い思いをさせてしまったルクレツィアにはキチンと報いたいとも思うのだ。

 カッコよく「痛み程度」といえないことは、ソル自身がよく知っているからこそ。


「あ、りがとうござい……ます……」


 極度の緊張と今までで最大の痛みに耐えていたルクレツィアは、ソルのその言葉に安心してしまい、我知らず己が意識を手放してしまった。


 すぐさまジュリアが『状態異常回復』魔法ほか、生きてさえいればすべてのコンディションが万全となる魔法を一通りかけたことによって、すぐさまルクレツィアは意識を取り戻すことに放ったのだが。


その際、しばらくは使い物にならないことも覚悟していた左腕ばかりか、ここしばらく感じたことのなかった万全を己が身に感じて驚嘆している。


 こんな状況下で戦えるのであれば、確かに魔物を恐怖する必要などなさそうだと。



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