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【書籍版6巻発売中!】怪物たちを統べるモノ ~能力『プレイヤー』使いは最強パーティーで無双する!~【コミカライズ2巻発売中!】  作者: Sin Guilty
第四章 『虚ろの魔王』編 前半

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第258話 『模擬戦 鬼人』⑧

 それこそうっかり手加減具合を間違われでもすれば、死んでしまってもなにも不思議ではない。


 できれば今一度念を押して「手加減を忘れないでくださいね」と伝えたいルクレツィアだが、焔躰に(こう)なってしまっては言葉を発することはできない。


 よって速やかに今自分ができる最大の攻撃を仕掛けるしかないのだ。


 それに自身の内在魔力(インナー)が尽きれば『焔躰廻遷』も解けてしまう以上、今のルクレツィアにとって短期決戦用の最終兵器であり、のんびり構えている余裕などもとよりありはしない。


 その焔の躰となり浮遊しているルクレツィアが距離を詰めようとすると、フレデリカは容赦なく『遠当』の連打でそれをさせまいとする。


 きちんとただの拳打ではなく、掌を閉じつつ手首を捻ることによって魔力を帯びさせた空気の爆縮を伴う、鬼火を無力化してのけた攻撃、その連打。


 そのすべてが(かわ)そうとする仕草を見せないルクレツィアに命中するが、着弾した部分の焔をある程度抉り取るだけで、痛痒(ダメージ)を与えることも接近を阻むこともできない。


(攻撃の無効化だけではなく、吸収もですか!)


 『遠当て』が通用しないとなれば即座に攻撃手段を別の武技に切り替えたフレデリカだが、その悉くが大火に放り込まれる木屑の如くすべて吸収されている。

 攻撃そのものの衝撃によって一瞬は穿たれる穴も、燃え盛る焔にそうした時のように一瞬で埋められる。

 意識して纏わせたものも、武技を成立させているものも、すべての魔力が魔焔の塊ともいうべきルクレツィアに吸収され、その力をいや増すことに利用されているのだ。


 これこそがルクレツィアが『焔躰廻遷』を攻防一体の技と見做しつつも、防御寄りだとみなしている理由である。


 魔法や武技が生み出す攻撃力の根幹をなしている魔力そのものを吸収するのだ。

 ただの物理攻撃で魔力を源としている轟焔をかき消すことなどできない以上、目に見えている現象だけを捉えれば、防御としては完全と見做しても過言ではないだろう。


 実際、迎撃をすべて無効化、吸収された結果、ルクレツィアの接近をフレデリカは許してしまっている。

 

 だが先の『百火繚乱』の直撃を喰らったことにより、桁違いのレベル差や膨大量のスキルといった、数値換算された「強さ」だけでは対処できない攻撃がある事を理解しているフレデリカには妙な焦りはない。


 この場においては油断することなく己が最善と判断した行動を取り、それにルクレツィアがどうアジャストしてくるのかを引き出せばいいのだ。

 これが実戦であればフレデリカがどうしたのかは、模擬戦を終えた後に感想戦で告げればそれで済む。


 それにルクレツィア本人が『焔躰廻遷』は攻防一体の技ではあっても攻撃力においては『百火繚乱』に劣ると認めている以上、膨大量のH.Pに守られたフレデリカに痛痒(ダメージ)を通すことが不可能なのは間違いない。


 だからこそ今ルクレツィアは遠慮なく『焔躰廻遷』をフレデリカに対して駆使できているとも言えるだろう。


 もはやソルたちにとっては、H.Pの減少を以て自分たちが痛痒(ダメージ)を受けたと見做しているのだが、魔物(モンスター)と同じくそれでまったく行動が阻害されないなど、敵対者(ルクレツィア)にとっては恐怖でしかない。


 だがH.Pがある限り痛痒(ダメージ)はもちろん痛みさえ感じないことを理解できているフレデリカは、落ち着いて近接戦闘の間合いにまで接近を許したルクレツィアを迎撃する。


 もとより接近戦は「格闘士」の得意とするところである。

 近接物理特化の銀虎族(ファルラ)とは違い、その軸足を魔法攻撃に据える鬼人族、しかもレベル差が2桁もある相手に後れを取るはずがない。


 実際、戦闘状態で集中すると同時に起動する『思考加速アクセル・コギタティオ』と、その加速された思考に追従可能な身体を有しているフレデリカにとって、ルクレツィアの動きはスローモーションでしかない。


 極限まで集中すれば、フレデリカの主観でいえばごく短時間、相手が完全に静止しているものとして立ち回ることすらも可能なのである。


 彼我の距離を殺しに来たからには、ルクレツィアとて近接戦闘が望みなのだろう。

 だがそうと見せかけて至近距離から不可避の魔法攻撃をぶっ放すわけでも、魔法によって強化されているであろう四肢から繰り出される、高速の打撃を繰り出してくるわけでもない。


 フレデリカの視覚の中ではゆっくりと、だが近接戦闘の間合いすら超えて踏み込んできつつ、ただそのすらりとした焔と化した腕を、こちらへ伸ばしているようにしか見えない。


 よってフレデリカはその腕を払わんとするが、その「捌き」は迫りくるルクレツィアの腕を極わずかの抵抗――水でできたものを通り過ぎるかのような――を感じただけで、するりと突き抜ける。

 いやその刹那に重なった瞬間、確実にフレデリカのH.Pを僅かずつとはいえ削っている。


(触れない!?)


 武技や魔法を魔力に還元して吸収するのみならず、単純な物理的接触も不可能。

 それだけではなく触れた部分に痛痒(ダメージ)を発生させる。


 さすがに驚いたフレデリカだが、同時にルクレツィアが狙っていることも理解できた。

 ただルクレツィアは間合いを詰め、フレデリカに抱き着こうとしているのだ。


 自分自身が発動した炎属性攻撃魔術のものというわけである。

 

 普通であればかなりの距離を吹っ飛ばす、というよりそれでとどめをさせそうなほど強烈な蹴りをルクレツィアの細い腰へと容赦なく放つが、それもまた同じく突き抜ける。


 そして首元へと抱きつかれた。

 その瞬間にルクレツィアの焔躰が強烈な光を発し、とんでもない熱量を放出し始める。


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