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【書籍版6巻発売中!】怪物たちを統べるモノ ~能力『プレイヤー』使いは最強パーティーで無双する!~【コミカライズ2巻発売中!】  作者: Sin Guilty
第四章 『虚ろの魔王』編 前半

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第249話 『模擬戦 銀虎』⑨

「意外な決着になったね……」


 休暇での「お約束」に引き続き、思いもよらない展開でいきなりファルラの全裸を目にしてしまったソルとしてはそう言うしかあるまい。


 今回はイケおじ(スティーヴ)ちょいワル爺様(ガウェイン)もこの場には居たため、その被害の規模は「お約束」の時よりも拡大していると言えるだろう。

 2人とも「あ、まずい」と思った瞬間に目を逸らしはしたものの、さすがに「見ていない」と強弁するには無理がある。


 ほぼソルの側付きになることが確定している美女の全裸を見てしまったことは誠に申し訳ないとは思っているが、どうすることもできなかったことも汲んで欲しいところである。

 実際リィンやフレデリカたちの「お約束」を回避できているだけでも褒められてもいいはずの2人ではあるが、その顔色はさえない。


 まあそれ以上にさえないのは、その『模擬戦』を行っていた当の2人、エリザとファルラなのではあるが。


「申し訳ありません」


「いや、エリザ()悪くないよ」


 しょんぼりと謝罪するエリザをソルが即座にフォローする。

 実際、先刻の事故をエリザのせいだとするのはあまりにも忍びない。


 とはいえエリザとしては、獣人種(セリアンスロープ)の秘奥である『完全獣化』の真価をまるでソルに見せられないままに『模擬戦』が終了してしまったことには、忸怩たる思いがあるのも事実だ。


「はぁい。悪いのはすべて私でぇす……」


 だが今一度謝罪の言葉を重ねようとしたエリザは、自分以上に本気で落ち込んでいるファルラのその言葉の前には口を(つぐ)むことしかできなかった。


 『完全獣化』に伴って一度は脱げてしまった(ほう)を雑に身に纏い、がっくりと項垂れている様は、獣耳が垂れていることもあって大型の獣がしょんぼりしているようにも見える。


 どこかはしゃいでいるような、元気なお姉さんめいた空気はもはやどこにも存在しない。

 ギャル系であろうがなかろうが、落ち込んでしまえばみな同じなのかもしれない。


 ファルラが身に付けている(ほう)は銀虎族がその技術と現時点の持てる財をつぎ込んだ民族衣装である。

 仕立てた者たちにしてみれば、もっと艶っぽい場面でそれらしく脱ぎ捨てることが望まれてはいたのだろうが、それは叶わなかったというわけだ。


 もっともファルラは自分の全裸を見られたことについては、わりとどうでもいい。


 さすがに裸族ではないものの、常態でも人よりは獣毛に覆われている部分が多いため、同族たちの中では男女ともに相当の薄着が常なこともある。

 休暇時にリィンやフレデリカが身に付けていた水着といい勝負で、中にはそれ以下の布面積しか持たない衣服を身に付けているものさえもいる。


 残念ながらそのほとんどは流石に男性ではあるのだが。


 そもそも今ファルラが雑に再び身に纏っている(ほう)とて、上等な生地や飾紐、金糸銀糸をふんだんに使ったうえで機能性も維持しているとはいえ、その主目的はそれを身に付ける者の「色艶」をいや増すための見え隠れ(チラリズム)に特化したものなのだ。


 それだけではなく、『完全獣化』を行えば身に付けているものすべてが脱げてしまう事はすでに経験済みだったので、行使した時点で解ければ全裸になってしまうことなど覚悟の上でのことだったのだ。


 なにを今さらといった気分になるのも、ある程度は仕方あるまい。


 それよりも獣人種の秘奥であり、自身も『禍々しい獣人種ゆえの業』だとまで思っていた『完全獣化』を行使した結果が()()であった事があまりといえばあまりなため、その衝撃からすぐさま立ち直ることができずにいるのである。


 力の象徴。

 行使する当人ですら御しきれない、巨大な力の爆発。

 獣人種の矜持の根幹をなす、獣と人の混成によって到達した生物としてのひとつの頂点。


 そう信じていた『完全獣化』を行った自分が、愛玩動物としか思えぬ行動を取ったのだ。

 それで衝撃を受けるなという方が無理だろう。


「ファルラさん()悪くないよ。確かに『完全獣化』が人の意識が低下して獣としての本能が強く出てくるのであれば、()()なるのも自然だと思うし……」


 慌ててソルがファルラとて悪いわけではないと、理屈付きでフォローする。


 どうあれ強い立場にいる者は、言葉遣い一つをとっても細心の注意を払う必要があるよなあと、反省しきりなソルである。


 エリザを慰める際、とくになにも考えずに「エリザ()」と自分が口にしたことによって、ファルラ本人だけではなく、それを聞いた周囲の者たちもまた、責任の所在が奈辺にあるのかを誤認してしまう可能性があるということに思い至ったのだ。


 その結果、勝手に忖度して動き出す者がいないとは言い切れない。

 まだ少人数である内輪での事であればどうにでもなるが、ある意味ソルは現時点でさえこの大陸の頂点と見做されているのも事実なのだから。


 そんなソルの様子を確認したフレデリカは、ちょっと嬉しくなってしまっている。


 誰も逆らえない絶対者がその力ゆえに「それも当然だ」と思うのも、今のソルのように「気をつけなきゃなあ」と思うのも、単純に正邪善悪だけでは語れない。

 だからこそ今のソルのように考えてくれることが、力持たぬ民草にとってどれだけ僥倖であるのかをフレデリカは理解できているからだ。


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