第243話 『模擬戦 銀虎』③
――わっ! って。そんなかわいいリアクションがとれるような技じゃないんだけどなぁ、ホントは。
その神技としか思えぬ所業と、可愛らしい女の子がただびっくりしたようにしかみえないリアクションの乖離たるや、戦闘中にもかかわらず思わずファルラが笑ってしまいそうになるほどである。
「――すごいな」
「そうなのですか?」
今の攻防を見て感心するソルの意見には、全面的に同意するファルラである。
だが次に鬼人族のルクレツィアと戦うことになっているフレデリカは、そのソルの驚愕にいまいちぴんと来ていない様子だ。
確かに言われてみれば2人の会話を優れた聴覚で聞いているファルラにも尤もな意見で、今更エリザの主であるソルが、その神技に驚くというのもおかしな話である。
「魔法や武技――スキルの選択、発動としてではなく、自身の魔力操作のみで今の「技」――魔力弾を成立させていることに対して、主殿は感心しておられるのです」
「……なるほど?」
フレデリカとファルラの疑問に答えたのは、最強存在である『全竜』。
それでもなおフレデリカには肚落ちした様子が見受けられない。
そしてそれはファルラとて同じである。
――凄いのはエリザさんの方なんスわー……
ルーナの説明によれば、ソルが「すごい」と賞したのは、己の配下が苦も無く無効化してみせた、ファルラの弾技の事だったらしい。
ソルが否定しないところを見ても、ルーナの間違った解釈というわけでもないようだ。
絶対に自身の有用性を認めてもらわねばならない相手からの賞賛は喜ぶべきなのではあろうが、正直なところ「まったく通用しなかった技」の仕組みだけを褒められても、ファルラとしては微妙なところである。
だが『プレイヤー』という能力を持っているソルとしては、充分に驚愕に値したのだ。
人が魔力を基とした魔法、武技を使う際には、文字通りそうなるようにはじめから設定されているスキル――『魔弾』や『回復』のような――を発動させるしか手段はない。
やっていることは自覚しているスキルの選択と発動だけであり、それに従って魔力が魔法や武技に変じて現象するのは、すべてが自動的なのである。
自らが得、研鑽した知識や技術に基づいて、己が意志によって体を駆使する本来の「技」などとは根本的に違っている。
よって極端な話、どれだけ膨大な内在魔力を生成可能であろうが、どれだけ莫大な外在魔力を吸収可能であろうが、その身になんの『スキル』も宿っていなければ、人はそれを有効に活用することなどできないのだ。
だがファルラは――獣人種は魔力そのものを自身の感覚で運用し、スキルに頼らず『魔力弾』として撃ち出すことを可能としている。
自分の身体を己の意志で駆動させるが如く、己の支配下に置いた内在魔力と外在魔力を技として駆使してのけたということである。
もとより内在魔力は微々たるものであり、魔導生物ではないゆえに外在魔力を取り込み己が物とするための魔導器官を持ない人間には、俄かにはピンとき難い話ではある。
だが『プレイヤー』として他人に付与できるあらゆるスキル、ステータスを自身には付与できないソルだからこそ、ファルラの――獣人種の凄さを一番実感できる。
『全竜』や『妖精王』と共に戦闘することによって、現存する人類の中で最も高いレベルに至っているのが今のソルである。
それに伴って内在魔力の生成量と保有量も常人とは桁違いになっており、意識が戦闘モードへと移行すれば、他の仲間たちと同じようにその身から魔力光を噴き上げるほどの域に至ってはいる。
たしかに膨大な内在魔力によって身体は強化され、通常機動においては仲間たちに置いて行かれないように動くこともできるようになった。
ただの物理攻撃で痛痒をくらうことなどすでにありえず、低レベルの魔法や武技なども余裕を持って躱すことなど、もはや児戯にも等しい。
無能力者は言うに及ばず、たとえ能力者が相手であったとしても一方的に無力化してしまえるほどの強さを得ていることは間違いない事実だ。
だが言ってしまえばそれだけだとも言える。
よく知られている魔法も武技も使うことはできず、『プレイヤー』が可能とする他者へのステータス類の増加も自分にはできない。
当然ある意味『プレイヤー』が持つ最大の力とも言えるH.Pをその身に纏うことも叶わず、いくらステータス的に人間離れしていようが、低レベルのものであっても武技発動による魔力を纏った剣で斬られれば肉は裂け、魔法の直撃を喰らえばその部分は消し炭になるだろう。
要は桁違いにレベルを上げて物理で殴ることによって能力者に勝つことは出来ても、万が一、低レベルのものであっても魔法や武技の直撃を受ければソルはあっさりと死ぬ。
だからこそ全竜は常にソルの側に付いており、けして別行動をとることがないのだ。




