第237話 『転移門起動』⑤
女の身からすれば正直下らぬことだと思いもするが、媚びるに足る相手の趣味嗜好を勘案すれば、そうなることを否定できるほど子供なわけでもない。
ソルにそんなつもりなど全くなかったとしても、ただ美しいからと今はもうこの世にいない貴族のおもちゃになっていた者を代表として、万が一にもソルの不興を買うわけにはいかないという判断を、頭から否定することなどできはしないのだ。
気分で自分たちを鏖にできる強者に、弱者側が自分たちの価値観を押し付けることなどできるはずもないのだから。
せっかく解放された同族の元とはいえ子持ちの人妻に、「みんなのために」というお題目で再びそんな役目を背負わせることが躊躇われたというのもあるだろう。
だからこそ美しさと純潔性を持ちながら、亜人種のためというお題目をも上回る我欲を持っていたルクレツィアが選ばれたことには、納得しているというよりも感謝さえしている。
「僕も女ですけど、ソル様のおかげで『完全獣化』も可能になっていますし、銀虎族の中でも強い方だって自信は、あ、あります」
そのルクレツィアの発言に重ねてこれ幸いと、自身も代表に相応しくないと思われているらしいことに気付いていたファルラも、自信のアピールを拙いながらも行う。
「……そうなんだ」
それを聞いたソルが、希少種を育成することに喜びを見出す迷宮、魔物支配領域攻略中毒者としての光をその目に宿した。
自分の想定と違っていたというだけで、『能力』において男女の性差による基礎身体能力の差が誤差にすらならないことなど、ソルこそが一番わかっている。
実際、その『能力』を自由に組み合わせて付与できるソルにかかれば、つい先日まで能力を持っていなかった大国の王女様や、スラム暮らしの少女を世界最強の一角にしてしまえているのだから。
であればルクレツィアとファルラがその美貌とスタイルだけではなく、鬼人族と銀虎族としての『能力』においても優れているのであれば、ソルにとってなんの問題もありはしない。
「長からはソル様が望まれるのであれば力をお見せせよ、と申し付かっております」
「僕も『完全獣化』をしてみせろって言われてます!」
ゆえに2人のその言葉を聞いて、ソルの瞳は無邪気に輝く。
亜人種と獣人種について事前情報を収集したソルが強く興味をひかれた『能力』に、鬼人族の『陰陽術式』と銀虎族や金狼族などの高位種族のみが可能とする『完全獣化』が含まれていたことは言うまでもない。
それを今すぐこの目で見られるというのであれば、わくわくするなという方が無理なのである。
鬼人族の唯一魔法体系である『陰陽呪術』
銀虎族の秘奥である『完全獣化』
それらの『能力』を『プレイヤー』を以て把握し、それらを補完可能な新たな『能力』を付与して強化できるようになるのは、ソルとても望むところなのだ。
それに『全竜』や『妖精王』、『神獣』といった怪物たちを除けば、攻撃魔法役と特殊物理攻撃役が加わるのはソル直下のパーティー・バランスとしても悪くない。
『盾役』のリィン。
『回復役』のジュリア。
『物理攻撃役』のフレデリカ。
『強化役・敵弱体役』のエリザ。
そこへ『魔法攻撃役』として鬼人族のルクレツィア、『特殊物理攻撃役』として銀虎族のファルラが加わる。
自分自身をあくまで指揮役、パーティーの外側の存在だと見做し、そのソルの判断で適時使役する『全竜』、『妖精王』、『神獣』を召喚獣的な切り札と捉えれば、この2人の参加を以てパーティーが完成すると看做すこともできるのだ。
女性ばかりではあるが。
もっともその視点でみた場合でも、
一途&正統派幼馴染のリィン。
からかい&お色気系幼馴染としてジュリア。
いかにもな貴顕お姫様フレデリカ。
依存&歳下庇護欲刺激系であるエリザ。
そこへ新たに
モデル系クール・ビューティーであるルクレツィアと超絶スタイル&僕っ娘&ケモ耳のファルラが加わるとなれば、被りもなくバランスの取れたハーレム? といえるだろう。
その上、全竜と妖精王も揃っているのだ、ハーレムではないと強弁するにはさすがのソルの威光を以てしても無理筋でしかない。
あえて言うのであれば、種族的に『魔人種』が加われば完璧というところではあろうが、その辺は切り札枠として将来的には『魔王』を加える予定なので問題ないとも言える。
個別エンドであればまだしも、ハーレムエンドを目指すのであれば難易度は跳ね上がる状況だと言っていいだろう。
ソルたちにはなんのことやらわからないだろうが。




