第234話 『転移門起動』②
「それに……2人とも女の子に見えるんだけど」
「ソル様の仰るとおりですね。亜人種は『鬼人族』の代表ルクレツィア・シュステン様と、獣人種は『銀虎族』の代表ファルラ・ドゥルガー様のお2人です。それぞれが亜人種、獣人種、すべての氏族の代表とされております」
転移前からその姿勢を取っていたのであろう2人は、ソルたちを前にして完璧に平伏している。
どう見ても見間違いようもなく2人ともに女性である。
しかもなんというかこう、ソルは見たことがない種類のものではあれど結構際どい衣装に身を包んでいるように見える。
だがそのソルの疑問に対しても、フレデリカはいつものようにこてんと首を傾げながら「なにかおかしいですか?」という様子を変えることはない。
事前に把握していたその2人の種族と名前を、すらすらと述べている。
そればかりかソルに問われればどんなことでも答えられるように、2人のより詳細な情報もすでにフレデリカの頭の中にはインプット済みである。
それはフレデリカにしてみれば当然のことでしかない。
なんとなればこの2人は、現在『怪物たち』とジュリアも含めれば6人で形成されている、俗称『ソル・ガールズ』の新メンバー候補だという認識であるからだ。
亜人種の中でも『鬼人族』はかなり強力な氏族である。
魔法を使うことにおいては防御、強化、回復系に特化した『妖精族』と双璧を成す、攻撃、弱体系に特化した魔法使い系の氏族。
鬼人族の特徴である『鬼角』と呼ばれる魔導器官を有し、そこから取り込む外在魔力を陽、己が内から発生させる内在魔力を陰とし、『術式』と呼ばれる特殊な魔法を駆使して敵を粉砕する。
また物に魔力を込めることも得意としており、魔導武装である「咒刀」や、魔導具である「札」が有名どころである。
大陸の一般的なものとは趣を異にする特徴的な装束――いわゆる和服――に身を包み、ソルと同じく黒髪黒目の者がその多くを占めている。
獣人種における『銀虎族』もまた強力だ。
基本的には身体能力に特化した氏族が多い獣人種においても、『金狼族』と並んで『完全獣化』を可能とする高位種。
『完全獣化』した際の戦闘能力は獣人種の中でも群を抜いているのは間違いない。
魔物やその上位種である魔獣であっても虎系や狼系は強大なモノが多い。
それが人としての知恵と知識、意思を維持したままで機動できるとなれば、どれほど強力なのかは想像に難くないだろう。
その瞳を魔導器官としており、強力な個体ほど美しい『獣眼』を持っている。
こちらもまた大陸の一般的な衣装を身に付けていない。
袍と呼ばれる、袖付きより下の脇が縫い合わされておらず前身と後身が分かれている特徴的なもの――いわゆるチャイナ・ドレスのようなもの――であり、その前後は凝った意匠の上等な飾り紐や金鎖銀鎖でつながれている。
とはいえ布面積はやたら少なく、かなりの肌が露出しているし、飾り紐や金鎖銀鎖がその素肌に食い込み気味で、やたらと色っぽさが強調されている。
この大陸における一般的な感覚からすれば、異国情緒に溢れた格好をした、普通の街中ではまず見ない姿形をした亜人種と獣人種の2人なのである。
亜人種の種族特性が魔法特化であり、獣人種の種族特徴は物理特化だといえる。
ちなみに亜人種たちは最初にソルたちと誼を通じた『妖精族』を自分たちの代表にすればよいと判断していたが、ほかならぬその妖精族から防御、強化、回復特化の代表は『妖精王』でよかろうが、攻撃、弱体特化の『鬼人族』からも代表を出した方がソルに喜ばれるだろうと聞いた結果である。
獣人種たちも特にもめることなく、美しい年頃の娘が『金狼族』にはいなかったという理由で、『銀虎族』の娘が代表を務めることがすんなりと決定している。
一部で『金狼族』のとある未亡人が候補にも挙がったのだが、まだ幼い子持ちであることもあってファルラの方が無難に選ばれたのだ。
「えーっと……たしか各氏族が絶対に従う者を代表として送るように、って伝えたよね?」
「はい。それはすべての氏族へ間違いなく伝わっております。その結果、このお2人が選ばれたのですが……このお2人ではソル様の想定とは違いましたか?」
「えっとぉ……」
フレデリカの言葉通り、この選出結果はソルの想定とは決定的に違っている。
ソルとしてみれば亜人種と獣人種の各氏族の代表を承認し、その直下に少なくとも1パーティー、必要であれば複数のパーティー分をプレイヤーの『仲間』として育成を開始するつもりだったのだ。
もちろん将来的にはパーティー内における『役割』に応じて各氏族を組み合わせるつもりでもあるが、まずは気心の知れた氏族同士で強くなってもらえればいいと考えていた。




