第223話 『お約束イベント』③
当然その素材は『魔導制御衣』と同じそれを使用した物である以上、全竜や妖精王が起こしたものではあるとはいえ充分に手加減された、ただ大量の水の奔流や水柱による打ち上げ程度で破れたりするはずもない。
そしてまだしもルーナとアイナノアが身に付けているワンピース・タイプのような意匠のものであったのなら、最悪の事態は免れ得たのかもしれない。
だが4人ともが極度に布面積の少ないセパレート・タイプの水着であった上、その素材はどうであろうが身体とのフィットには特殊な処理がなされているわけでもなかった。
つまりは当然の帰結として脱げたのだ。
まずは全竜が発生させた大波によってみな強制的に一糸纏わぬ姿にさせられ、その状態のままに妖精王の水柱によって空中高く打ち上げられたというわけだ。
その様子をソルは「うわあ」などと言いつつ、間抜けに眺めていることしかできなかった。
どうするのが正解だったのかなどわかるはずもないが、ソルが今後も紳士を気取るつもりなのであれば、すぐさま目を逸らすべきだったのかもしれない。
だが予想の斜め上を行き過ぎる事態と、大波に呑まれてから水柱で打ち上げられるという、見ようによっては豪快なアトラクション・コンボに気を取られて、そんな気の利いた反応を示す余裕などなかったのだ。
結果、見てしまった。
リィンのそれですらはっきりと見たことはなかったのにも拘わらず、4人全員分をそれはもうきっちりと。
ただ初めて年頃の女性の全裸を目にするという、本来であればソルの年齢に相応しいはずの青々しい性的期待感など、欠片たりとも存在する余地などなかった。
誰もが訳が分からないまま4人4様の間抜けなポーズでの「はじめて」を晒したことは、女性陣にとってもソルにとっても、お互い不幸な事故であったとしか言いようがないだろう。
今のレベルからすれば取るに足りない事態とはいえ、危機的状況に陥ったと本能が判断した結果、4人の誰もが反射的に戦闘態勢へと意識をシフトさせることになった。
その結果、全裸で魔導光を噴き上げているという状況もその間抜けさに一層の拍車をかけている。
だが反射的に意識が戦闘態勢に移行した4人はその結果加速された思考によって、正しく自分たちの現状を把握することにもなった。
容赦なく全裸。
しかもわりと間抜けなポーズ。
海面からは10数メートルの位置。
現在最高高度に到達し、自由落下に移行するタイミング。
脱げた水着の現在地は即座に捕捉できず。
いやたとえ捕捉できたとしても、さすがに『固有№武装』などを展開していない以上、空中に浮かされた状況から自由な機動などできるはずもない。
どれだけレベルが上がろうとも、人は竜種や鳥の如く空を制することは出来ないのだ。
つまりわりと取り返しのつかない状況であることを認識した4人がまず最初に確認したのは、当然のこととしてつい先刻まで自分たちのじゃれ合いを笑顔で眺めていたソルの現状である。
4人からの動揺した視線を同時に受けて、ソルは自分が見えているのだから、当然向こうも自分を見えていることにやっと思い至ることができた。
つまり自分が今までガン見していたことも、彼女たちには筒抜けだったということを理解したのだ。
よってソルは居た堪れない表情を浮かべながら今さらすっと目を逸らしたが、いろいろと遅きに失したと言わざるを得ないだろう。
その様子を確認した4人は、4者4様の羞恥の表情を浮かべながら、慌てて可能な限りあられもない我が身を隠そうとする。
だがたった2本の細腕でそんなことは不可能である。
それ以前に今さら隠したとて、すでにばっちりみられてしまった事実は覆しようもない。
まあだからといって、開き直ることなどできるはずもないのだが。




