第217話 『真夏の休暇』⑦
「ふふふ……ソル様、私の水着はどうでしょう?」
そんなやりとりをにこにこと見守っていたフレデリカが、先刻話しかけた時と同じく、その上半身をソルの顔へと近づける。
さらさらの美しい金髪の髪が真夏の光を反射させて、ソルの頬に幾本かが触れさせながら自分への感想も欲しいと囁くようにして伝えた。
その様子を見て、ソルは突然理解した。
フレデリカたちが着ている水着はその意匠やそれに起因する布面積の少なさもさることながら、その素材と縫製技術こそがそのエロさの本質なのだと。
つまりまるでなにも身に付けていないかの如く、フレデリカの美しい肢体が自然に振舞うのだ。
要は今のように上半身をかがめられたりすると、とてもわかりやすく揺れる。
さっきリィンが一回転した際の破壊力がえげつなかったのも、間違いなくそのためだ。
水着としての機能を維持しながらもそんなことが可能な素材ともなれば、まず間違いなく高級魔物素材を使用しているというだけではなく、魔導鍛錬師の技前も関わっているのだろう。
神様から与えられた『能力』の無駄遣い、あるいは最も有効な活用方法というやつである。
「清楚な感じなのに、なんというか、とても艶っぽいよね……」
「ありがとうございます」
直視できない様子でソルが赤面しながらそう答えるのを聞いて、それ以上踏み込んだ質問をすることなくフレデリカがとびきりの笑顔でその評価に喜んでいることを十全に伝えた。
平然としているように見えるフレデリカとて、まったく恥ずかしくないわけではないのだ。だがソルに今のような顔をさせられるのであれば、皆と一緒にわりと思い切った水着のデザインを採用した甲斐もあるというものなのである。
どうやらソルの中にある理想の王族像の基本は「何事にも動じず常に泰然自若としている」というものらしく、それを理解したフレデリカは最近努めてそう見えるように振舞っている。
もちろん狙っているのは、そこからの落差によってソルに致命の一撃を加えることではあるのだが。
自分ではやらかしたと思っていたとある酒席以降、ソルがフレデリカの女に反応を見せることがあからさまに増えたので、王族然とした凜とした清楚さを軸としながらも、そこからのギャップ攻めに戦術を転換したフレデリカなのである。
もちろんこの後に展開予定の戦術も複数考えてきており、この戦場における勝利の追求を徹底する所存である。
その観点に立てば、まずは序盤戦のペースは女性陣が掴んだとみて間違いないだろう。
あとは主戦力が土壇場でヘタレ無いようにバックアップしつつも、自分自身のアピールも怠らないようにしていくのみである。
「エリザのも似合っていると思う。なんだかフレデリカと並んでいると姉妹みたいだね」
「う、嬉しいです」
どうやら全員の水着への感想を述べねばならないらしいと覚悟を決めたソルが、赤をベースにフレデリカと似たデザインの水着を身につけているエリザにも言及する。
出逢った時には痩せぎすであったエリザだが、その後3桁にまで至ったレベルアップもさることながら、最近のバランスのとれた上等な食事と、なによりもフレデリカが熱心に世話を焼いた素肌からファッション、細かい所作に至るまでの徹底したケアによって、見違えるほど健康的かつ上流階級の子女らしくなっている。
ソルよりも年下とはいえ、14、15歳の健康的な美少女という存在は、17歳の男の子を挙動不審にさせる程度であれば容易いだけの色香をすでに放っているものだ。
そして男の子よりも女の子の方が、常にその手のことに関する勘は良い。
一見すれば冷静にエリザの水着姿を評しているように見えるソルが、リィンやフレデリカ、ジュリアに対するほどではなくとも、微妙に目のやり場に困っていることなどあっさりと看破できている。
ゆえにいつも「ソル様を赤面させられるフレデリカ様やリィン様はいいなあ」と思っていたエリザは今、心の底から嬉しいのと同時に、ソルにそういう視線で見られていることに本気で恥ずかしくなって真っ赤に茹ってしまっている。
嫌なのではない。
自分でもソルにそう言う目で見てもらえることが、素直に嬉しいのだ。
だがそんなエリザの様子を見た回りの女性陣たちも嬉しそうにしているあたり、まだ自分は子供扱いだなあ、とも思っているエリザである。




