第199話 『初報酬の使い方』②
アランとソルが絶対についてくることを確信しているあたりがマークらしいとも言えるが、アランとしては幼馴染のリィンとジュリアを先輩に任せっきりというわけにもいかない。
アランはこう見えてロス村出身の5人の中では一番常識人であり、そのため苦労人でもあるのだ。
さりとてマークを1人にしていてはいろいろと不安だし、リィンの気持ちもある程度察しているアランとしてみれば、ソルに女の子2人を押し付ける態をとっても非難は起こるまいと判断したらしい。
もちろんマークと2人で回る方がアランにとっても都合がいいのもまた事実であり、同じ判断でも角度を変えれば、リィンとジュリアをソルに押し付けたとみることもできるだろうが。
「ど、どうしよっか?」
とはいえそのアランの判断が、リィンにとってはとてもありがたいことは間違いない。
よってアランを非難するつもりなど毛頭なく、ちょっと挙動不審になりながらもソルの出方を窺うリィンである。
ソルであれば平気で「僕たちはラルフ会長のおすすめの店を教えてもらおうか」などと宣っても全く不思議はないのだ。
せっかくのアランからのパスを活かす術を未だ持たないリィンでは、ソルの朴念仁の前に敢え無く敗退するパターンが定石と言ってもいいだろう。
「わりと良い装飾品を売っている店がこの先にあるよ。せっかくだから行ってみたらどうかな?」
「行ってみたい~」
だがそこは今日1日を共に過ごしただけでもリィン→ソルの気配を感じ取っており、それに協力することは吝かでは無いラルフと、全てわかった上でそれに乗っかってみせるジュリアのコンビネーションが、アランのパスをうまくつなげてゴールに押し込んでくれた。
「じゃあ、いってみようか?」
「うん!」
「やったね!」
ソルの快諾に、リィンとジュリアがわかりやすい喜色を浮かべる。
美少女たちが喜んでいるところを見て、不機嫌になる男の子など滅多にはいない。
ソルとてもそれは例外ではないし、それが自分の反応によって引き起こされたものともなれば素直に嬉しくもあるのだ。
当然ソルとしても、ラルフがここまで明確に「幼馴染同士で行って来たら?」という空気を出してくれているのに気付かないわけではない。
それにリィンとジュリアが乗り気だというのであれば、2時間程度買い物に付き合うのは別に苦でもないのだ。
さすがに『夜街』の中に強力な魔導武装を扱っている店がないことくらいはソルでもわかるので、「じゃあ武具屋に行こう!」などという目も当てられない展開は避けられている。
というかリィンどころかラルフとジュリアにまで「女心のわからない朴念仁」扱いを受けているソルではあるが、実はそこまで酷いわけでもない。
今日の戦闘で1番負担をかけたのが『盾役』と『回復役』であることは誰よりも理解できているので、それに酬いることができるというのであれば、大概のことは受け入れるつもりではあるのだ。
自分の夢に協力してくれていることに対するお返しという考えが根底にある事が、朴念仁との誹りを受ける理由であるとも言えるのだが。
「途中で適当に消えてあげるからね~」
「え? ちょっと? ジュリア?」
すべてをわかっている、ある意味においてはアラン以上の苦労人とも言えるジュリアがこの機会をリィンが十全に活かせるべく、小声で途中でのフェード・アウトを宣言する。
これは先に言っておかないとそうなった場合に、ソル以上にリィンがテンパるので必要なことなのだ。
こう言っておけばこっそり消えなくても、棒読みで「さっきのお店で気になるのがあったから見てくるね」とでも言えば、同じく棒読みでリィンが「うんわかったよ」と返してくれるだろう。
そして女の子同士の決定に、ソルが口を差しはさむことはあり得ない。
「さて、俺たちは呑みながら約2時間、今後の打ち合わせでもしようか」
わちゃわちゃしながらおすすめの通りへ移動を始めたソルたちを見送りながら、ラルフのこの仕上げの一言である。
この一言が無ければ、リズは当然のようにソルたちについて行こうとしていたのだ。
その意味が理解できるラルフは苦笑いを浮かべ、ルディは天を仰いで溜息をついている。
ユディトだけは意味が解らず、きょとんとしているのだが。




