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【書籍版6巻発売中!】怪物たちを統べるモノ ~能力『プレイヤー』使いは最強パーティーで無双する!~【コミカライズ2巻発売中!】  作者: Sin Guilty
前日譚 『無限剣閃 序 出逢い』編

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第179話 『仰望』②

「……………………」


 そんな中ただ1人、事の真相を詳しく知っているソルだけが張り付けたような無表情で無言で座っている。

 よく見れば、ちょっと嫌な汗をかいていることがわかるはずだ。


 冒険者科――正式名称『能力開発科』のクラスは各学年に1つしか存在しない。

 その分それなりの生徒数とはなるが、そのため座学にはすり鉢状になった大きな教室が使用される。


 ソルたちロス村出身の5人が陣取っているのは、その大教室の後方窓側の位置。

 すり鉢状になっている王立学院でも最大級のこの教室では、学生にとって1番居心地のいい場所と言えるだろう。

 そこを占有していながら誰にも文句を言われない、というかそこがお前らの場所だろうとばかりに空けられていたところへ集まっているのは、今会話していたソルたち「ロス村の奇跡の子供たち」パーティーがこのクラスにおけるヒエラルキーにおいて最上位と見なされているからである。


 まだ入学3日目とはいえ入学式で見せた模擬戦の圧倒的な結果によって、すでにクラス中の同級生たちから完全に「格上」の5人として見られているのだ。

 「無限剣閃」も「ロス村の奇跡の子供たち」も、共に噂倒れではないことを入学式で見せつけられたからには無理もあるまい。


「でもソルが手伝ってくれるってんなら、やれなくもないよな?」


「まあそれは確かに。私たち5人がかりで、という前提にはなりますがね」


 マークがなぜか自慢げな表情を浮かべてソルの肩を叩き、アランが苦笑いを浮かべながらもそれを肯定する。

 リィンとジュリアもそこに異存はない。


 『魔力回復』

 『発動待機時間(キャストタイム)キャンセル』

 『再使用可能待機時間(リキャストタイム)キャンセル』


 すでに仲間として理解しているソルのそれらのスキルを全開で使用してくれさえすれば、今の自分たちであってもたったの数分で中庭を同じような状態にできるくらいの自信はあるのだ。


 それだけではなく初見の魔物(モンスター)であってもその行動を正しく見抜いて正しい行動を指示してくれるソルのことを、まだ魔物との戦闘に慣れない4人は心から頼りにしている。


 ソルがいなければ、入学前に魔物支配領域(テリトリー)で戦闘訓練をするなどというのは、自殺行為でしかなかったはずだ。

 だがその過程でソルの支援能力の凄まじさを体験した「ロス村の奇跡の子供たち」は、今年のクラスの中では圧倒的な実戦経験をすでに積んでいる。

 

 その結果に基づき、少なくとも今の時点では誰もが異議なく「ロス村の奇跡の子供たち」の中心――リーダーはソルだと認めているのだ。

 

 そんな会話が聞こえる位置にいた級友(クラスメイト)たちが「マジですか」という表情を浮かべてはいるが、昨日の模擬戦を見ているだけあって、ただの大言壮語、見栄の(たぐ)いだとも思えない。

 そして4人の様子から、昨日の模擬戦を見ただけではなにをやっているのかいまいちわからなかったソルこそが、他の4人からは中核だとみなされていることも理解できた。


 管弦楽団(オーケストラ)の指揮者。

 あるいは名馬(サラブレッド)の騎手。

 

 楽団の誰1人にも各楽器の扱いでは及ばなくとも、駆ける速さでは遠く名馬のそれには敵わなくとも、1流たちが1流の結果を出力するためには必要不可欠な存在。


 それがソルなのだと、指揮される者たちこそが認めているのだ。


 そんな様子を目の当たりにした級友たちは、ラルフのようにソルの真の力を見抜くことは出来ないまでも、さすがに侮るようなことをできるはずもない。


 少なくとも「ロス村の奇跡の子供たち」を除いた級友全員で昨日の魔物と戦ったとて、倒しきれると自信を持って言える者など誰もいないのだ。

 単純な攻撃力、あるいは防御力でソルに勝るからとバカにした結果、マーク、アラン、リィン、ジュリアの4人を敵に回すなど、自分はバカですと吹聴して回るようなものだからだ。


 目端の利く者であれば、ソルと組めさえすれば今は仰ぎ見ることしかできないエリート(マーク)たちと同様の力を、自分が持てるかもしれないと考えても不思議ではない。


 それこそ誰よりもはやくそう判断した『無限剣閃(ラルフ)』のように。


「どうしたソル? 表情が固まってるぞ」


「ソル?」


 ソルの肩に手を置いたまま、マークが怪訝な表情を浮かべている。

 それでもソルがなにも言わないことを確認したアランもまた、同じような表情になった。


 ソルは常から特に口数が多いタイプではないが、寡黙というわけでもない。


 なによりも迷宮(ダンジョン)魔物支配領域(テリトリー)の攻略、そのために必須な能力についてはロス村の5人の中でも1番情熱的であり、知識というよりも把握できた状況から「こうであろう」という分析をすることにはことのほか熱心だ。


 書物を中心に知識を積み上げるタイプのアランと話し込み始めた日には、他の3人がウンザリしてしまうくらいに熱くなることも珍しいことではない。


 いつものソルであればマークの振りを受けて自分たちならどのようにして今の中庭の状況を再現するか、あるいはどのような能力を行使すればたったの数分で中庭をこんな状況にできるかを、立て板に水のごとく話しだしていたはずだ。


 だが今日は曰く言い難い表情を浮かべたまま、なぜか沈黙を守っている。

 王立学院中が話題にしているこの話題の下手人の片割れ(1人)であり、それもどちらかといえば主犯よりであるからには、無理なからぬことではあるのだが。

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