第175話 『相乗効果』③
それよりもすでにソルの幼馴染たちは、こんな支援能力をあたりまえとしているらしいことの方が脅威だ。
王立学院で他の同期――つまりは普通の能力者たちを目にすれば、早晩ソルがどれだけとんでもない存在なのかを、嫌でも理解することになるだろう。
それがソルにとっていいことなのかどうか、ラルフにはまだわからない。
あるいはとんでもない実績を誇るパーティーの中で埋もれ、侮られている方がソルにとってはいいのではないかとも思えるのだ。
ソルの望みである、国家や冒険者ギルドといった巨大組織に本当の意味で目を付けられないようにするためには、それこそが必須なのではないかと。
そしてもしもそうするのであれば、ソルの望みである生徒会へ「ロス村の奇跡の子供たち」を取り込むことは都合がいい。
ラルフ自身やルディたちの立ち回りによって、ソル本人も納得した上であれば「便利ではあるがそうたいしたものでもない」と周囲に信じさせることも不可能ではないだろう。
「ところで「気持ちいい」ってそれ、女の子たちも言ってるの?」
一瞬でそんなことまで考えてしまったことを誤魔化すように、ラルフはソルがまだ苦手であろう下ネタ方面の話題へとあえて振った。
「いえ、男連中だけですね。女性陣は特段そういった副次効果はないようですよ」
「嘘だと思うけどなー、それ」
だがソルは自分では経験していないせいもあってか、下ネタだとも思っていないらしい。
快感とはなんぞやとなればもちろん男女差もあろうが、確実に幼馴染の女性陣たちが「魔力回復」をソルから受ける際に我慢しているだろうなと思うと、ラルフはちょっと笑ってしまった。
ラルフ自身が今感じた感覚を、ソルのパーティーメンバーになった自分の彼女も受けることになったらちょっと嫌だなとも考えてしまったので、自分で思っていたよりも独占欲が強い事実にも苦笑いを禁じ得ない。
もっともラルフは今、フリーではあるのだが。
「まあいいや。では昨夜に引き続いて俺の日課を御照覧あれ」
いやアホなことを考えている場合ではないなと気を引き締めなおしたラルフが、昨夜と寸分違わぬ『壱式・改』27連撃を一気に抜き放つ。
昼間、枯渇するまで魔力を消費したにもかかわらず、自身が感じたとおりに魔力全快からの上限数を放てたことに改めて感嘆を禁じ得ない。
このあと再び『魔力回復』を受け、『壱式・改』27連撃を放つ。
それを10回繰り返すだけであれば、今までと変わらずものの数分で飛躍的に効率化された「特訓」は終了するだろう。
『瞬動』の度に空気がかき乱されることが繰り返され、中庭で毎夜突風が吹き荒れるという噂ぐらいは立つかもしれないが。
「ホントに一瞬ですよね……1秒もかかっていない感じです。魔力があれば尽きるまで『瞬動』は維持できるんですよね?」
「おそらくね。最初は3発が上限だったのが、今の27発まで増えても感覚は変わらない。特訓を終えて右腕だけが疲れているということもないから、そう判断していいと思う」
「わかりました。それでもなにか異変を感じたら即止めてくださいね?」
「……今のを10回繰り返すんじゃないのか?」
だがソルは妙なことを聞いてきた。
「念のためにジュリアを呼んでおいた方がいいかな?」などと、まるでこの後回復役が必要になるかのような物騒なことをぶつぶつ口にしもしている。
ラルフが想定していた『魔力回復』と『壱式・改』の全ぶっぱを繰り返すのとは違う方法で、劇的にラルフの『零式』の使用可能回数を伸ばすつもりらしい。
「それでもいいんですけど……『壱式・改』には『魔力回復』よりも適切と思えるスキルがあるんです。ラルフさんの身体が持つことが前提になるんですけど」
「……危険だと思ったら即止めると約束する。俺だって自分の身は可愛いさ」
さらりと怖いことを言っているソルではあるが、それを聞いたラルフは背中を走り抜ける戦慄を抑えることができない。
確信に近い感覚で、『壱式・改』の全ぶっぱを10回繰り返す程度であればまったく問題ないとラルフは判断している。
それでもソルに伝えたとおり、「おそらく」という範疇ではあるが、言い方からすればその程度ではない負荷がかかる可能性をソルは想定しているのだ。
――10倍すらも超えてくるっていうのか?
「僕がこの特訓に使おうと思っているスキルは『魔力の泉』と言います。一定時間……正確には3分間、どのような魔力消費を伴うスキル、技、魔法を行使しても一切M.P――魔力が減少しなくなるモノです」
「…………………………は?」




