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【書籍版6巻発売中!】怪物たちを統べるモノ ~能力『プレイヤー』使いは最強パーティーで無双する!~【コミカライズ2巻発売中!】  作者: Sin Guilty
前日譚 『無限剣閃 序 出逢い』編

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第164話 『駆け引き』②

 だがソルにはその手の怯えがほとんどみえない。


 ラルフの戦闘力を()()にしているのは確かだろうが、それはパーティーを組んでいる相手の戦力を冷静に把握できているというだけであり、盲目的な依存とは明らかに違う。


 ラルフは積み上げた経験と肌感覚、勘によって至近距離に魔物(モンスター)がいないと判断しているが、リラックスしているように見えて常に警戒を怠ってなどいない。


 だがソルは本気で力を抜いている。

 そしてそれは油断とはまた違うものであることがわかる。


 戦場で力を入れ続けることなど不可能なばかりか害悪であると知っている熟練者(ベテラン)がみせる、オンオフの切り替えを体現しているようにしかラルフには見えない。


 つまりソルはラルフ以上の精度を以て、今この瞬間が安全であることを確信しているということになる。


 事と次第によってはソルの能力が、敵性存在がどこにいるかを把握できるというとんでもないシロモノである可能性すら、ラルフは視野に入れている。

 いや今のソルの様子を見ていると、そうだとしか思えない。


 そしてその判断は正鵠を射ているのだ。


「今日これから僕が見せる能力については、約束通りすべて内密にお願いします」


「それはもちろん。ソル君の許可を得ない限り、俺からは絶対に能力については話さない。たとえ教師や偉い人たち相手でもね。ただ一緒に戦闘していながら「なにもわかりません」というわけにもいかないし、今日は「どこまで言ってもいいか」をソル君が決めてくれ」


「はい。そのあたりの匙加減については助言をいただければありがたいです」


「任せてくれ。そのために実戦――わざわざ『試練の森』まで付き合ってもらったのだからね」


 ソルが自身の能力について、すべてを語っていないことなどラルフも理解している。

 一方で昨日の「助言」を聞いただけで、自分の『無限剣閃』は丸裸にされてしまっていることもまた理解している。


 だがラルフはソルの能力の底を知ろうとか、すべてを解き明かそうとかしているわけではない。


 ただ純粋に、自分ではこれ以上伸ばせないと思ってしまっている自身の能力の、よりうまい使い方を見つけてもらえないかと期待しているだけだ。


 ソルによる昨夜の助言。

 

 ラルフが全快の状況で技を発動できる上限数を正確に言い当てた。

 その上感覚で掴んでいる、もう1度技を使えるようになる時間さえもほぼ一致した。


 その際、最初の1発だけはかなり早く撃てるようになることすらも言い当てられた。

 ソルからすればM.Pが端数の2残ることになるのが見えているので、至極当然のことに過ぎないのだが。


 それだけにとどまらず、果てはラルフですら正確な数には自信が持てない「蓄積数」を正確に教えてくれたのだ。

 戦場で主武装の残弾数を正確に把握することは、大げさではなく生死を分ける。


 その時点でラルフの方から自分がこうだと理解している自らの技のすべて――『壱式』から『零式』までのすべてを説明した。

 その上でソルに「効果的な強化方法と使用法」を一晩考えてもらうとともに、実際に魔物に使用しているところを見てもらおうと思ったからこそ今、「試練の森」を訪れているのだ。


 ソルの能力をどこまで明かしていいかなどはそのついでに過ぎない。


 ただ今の時点でもラルフは、ソルが他者の能力を正確に見抜けることは秘匿した方がいいと告げることは決めている。

 その上で実戦において、ソルが凄いながらもそこまで規格外ではないという、いわばちょうどいい落としどころを見つけられればいいと思っていたのだ。


「じゃあまず、会長の実戦を見せてもらっていいですか? 最初は1vs1からで」


 そしてそれははやくも必要十分なものが見つかったとみて間違いない。

 ソルがそういうと同時、今日初めて訪れたはずである「試練の森」を、勝手知ったる様子でラルフを先導して歩き出したからだ。


「そっちに単独の魔物がいるってことね?」


「あ」


 呆れたようなラルフの確認に、しまったという表情を浮かべるソルである。


「自らが足を踏み入れた場所の自動地図化(オートマッピング)と敵性存在位置の完全掌握ね……それだけで正規軍でも冒険者ギルドでも充分大事にされると思うよ、俺は。ちなみに俺と専属でパーティーを組んでくれるなら、報酬の取り分を3:7でも呑むけど?」


「と、とんでもないですよ。それに僕のパーティーはもう決まっていますから」


「そいつはざんねん」


 謙遜されながらも、昨夜と変わらずパーティーの誘いについてはまたしても袖にされる。

 ソルにとって「幼馴染たちと共に」という部分は夢において重要な部分を占めているのだ。


 再びフラれたラルフは自分がソルから得ることができる利益もさることながら、このとんでもない力を授かりながらもまだまだ無防備が過ぎる下級生に、先輩として教えなければいけないことが多いことも理解した。


 今のラルフの言葉の後半を、ソルは間違いなくラルフの取り分が7で自分が3だと誤解している。

 それでもとんでもないと恐縮しているのは演技ではないのだろう。


 つまり自分の力を理解してはいても、それが()()()()()()()の方はまだ正しく理解できていないのだ。

 ある程度成熟した人間社会で生きていく以上、力とは金に兌換出来てなんぼなのだが、ソルにはまだそのあたりはぴんと来ていない。


 ソルの能力は本人が「これくらいなら知られても大丈夫だろう」と思っている域でも充分以上に驚異的であり、今のラルフのように自分のために利用しようとする者を引き寄せるには充分すぎるものだ。

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[一言] 本当にいい先輩だ
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