第158話 『累』②
エメリア王国において現状最強とされている『無限剣閃』という能力がどんなものなのか、ソルとしてもかなり興味はあった。
だからこそ今の時点では残り6枠しか開いていない『仲間』に、ラルフを登録することをよしとしたのだ。
実際、自分の能力である『プレイヤー』を介してラルフの能力――通称『無限剣閃』、正式名称『累』――を目の当たりにしたソルは、感心すると同時に納得もしている。
ラルフが自身を「最強」と見なされていることに対して、どこか皮肉気な様子だった理由が理解できたからだ。
「ま、特訓って言ったって、これを毎晩1セットこなしているだけさ。で、君なら俺をどう使う? 天才指揮官殿」
一方でラルフは少し気落ちしている。
ソルが自分の技の『壱式』を正しく見切ったことは確かだが、一呼吸で27連撃を実現するとはいえ、その程度で本気で感心しているのがわかったからである。
――さすがは「ロス村の奇跡の子供たち」の指揮官役。とはいえ期待しすぎたかな……
ソルが自分の『壱式』を「見切った」と思っているラルフは、目の良さとそれをまだ1年生の段階で可能とする才能には素直に舌を巻いてはいる。
だがそれは所詮「戦闘能力」の多寡に過ぎず、ラルフが期待した本物の『指揮官』としての能力とは無関係に思えたからだ。
「実戦では魔力を使わない技もあるんですね……ホントに凄い」
「……は?」
だが感心するがあまり思わず素で答えたソルの言葉に、ラルフは絶句することになった。
「そうですね……僕ならラルフ先輩の『特訓』を最高効率化して、可能な限り蓄積数? を積み増すことに注力しますね」
「君は……」
期待外れどころか、期待したものよりも遥か高みにいる能力。
実戦では魔力を使わない。
訓練の最効率化。
蓄積数を積み増すことに注力する。
ラルフが見せた『壱式』だけでその能力のすべてを理解していなければ、これらのソルが口にした単語は絶対に出てこない。
「『壱式』を1度見ただけで、本当に正しく俺の『無限剣閃』の正体を理解したのか?」
「………………あ」
演技ではなく茫然としてしまったラルフの表情を見て、ソルは自分がやり過ぎた――わかり過ぎたことを理解して、「しまった」という表情を浮かべる。
なによりもそれを隠すこともなく、素直に口にしてしまったことこそが「やらかし」だ。
賢しいとはいえソルもまだ子供。
自分が想像したこともなかった能力――『無限剣閃』の正体を知って興奮してしまうあたり、愚かしいというよりはまだ可愛げがあると表現するべきなのかもしれない。
「ふ、ふふふ、ふふははははは! 君は本当に天才なんだな。おみそれしました、甘く見ていたよ」
「え、えーと……」
だがラルフは素で大喜びしている。
つい先ほどまでは芝居がかっていた「胡散臭い先輩」の仮面も脱ぎ捨てて、心の底から本当に神に愛された子供に対して賞賛を送っているのだ。
『無限剣閃』こと『累』
それはレベル・アップに伴って強化された斬撃系の技であり、とんでもなく強力なものであるとはいえ世間一般に認識されているような『無敵無敗』のものではない。
ラルフは『無限剣閃』という通り名を与えられている己の技に、使い方によって名をつけている。
その種類は4つあり、『壱式』、『弐式』、『参式』
そして奥義に位置する『零式』
要は『累』とは斬撃強化系の能力にすぎないのだ。
魔力を消費することにより斬撃そのものを超強化、超高速化する。
その基本形となるのはラルフが先ほどやってみせた『壱式』
飛躍的に一閃の威力を伸ばし、速度も高速化する。
先ほどラルフは動かなかったが一振りに伴う行動はすべて瞬動化するため、『壱式』だけでも初見殺しといっても決して過言ではない強力なものだ。
それが強化された『弐式』
一閃が2重化――文字通り『累』られ、倍加する。
先ほどのラルフの挙動であれば54もの斬撃が一呼吸で敵には叩き込まれることになる。
その進化系である『参式』
累られた一閃を使い手の任意の位置に発生させられるようになり、斬撃が飛び道具としても機能するようになる。
その射程距離は使い手の視覚に捉えられてさえいれば制限はなく、意識を集中すればかなり正確に狙った位置に当てることも可能となっている。
1桁程度の数が相手であれば、正確に背後から首筋に当てることすらも容易い。
一呼吸で27連撃を放てるということは、ラルフの視界に捉えられた27までの敵はどれだけ距離があろうとも、その瞬間に不可避の一閃を叩き込まれることになる。
誘導性を持った魔法よりも、弓の達人による狙撃よりも恐ろしい、強化された一閃を「遠当」可能ということだ。
そして最終型にして奥義である『零式』
それは倍加した斬撃が蓄積可能となることによって成立している。




