第153話 『出逢い』③
「まあわからんでもないけどね。他の4人は派っ手だもんなあ……」
そんなソルの様子を見て、上級生は思い出すような表情を浮かべながら、フォローめいた言葉を口にする。
全校生徒どころか入学式に参加していた大人たちすべての度肝を抜いた「ロス村の奇跡の子供たち」による戦闘は、それなりに経験を積んだ者たちが思い浮かべるそれとは決定的に違っていたのだ。
魔物の攻撃を正面から喰らって無事に済む人間など、本来はほとんど存在しない。
四肢や本体による単純な物理的攻撃を凌ぐためにある程度の重装は必要となるが、魔力を使用しての特殊攻撃に耐えられる防具などほとんど現存していないからだ。
ゆえに魔物の特殊攻撃は躱す一択になるのが戦闘の定石なのだが、奇跡の子供たちの1人、盾剣士の少女は大盾に特殊な魔導光を宿らせる技で、魔物の特殊攻撃を完封してみせた。
魔物の特殊攻撃が放たれるたびに展開され、苦も無く防ぎきるその『光の盾』に魅了されてしまった者は多い。
リィンのように魔物の敵意を自分に固定しつつ、あらゆる攻撃を無効化してくれる『盾役』が成立するのであれば、どんなパーティーであっても自分たちにも居てくれたらなあと思わずにはいられまい。
その上、拳闘士の少年と魔法使いの少年は、体力も魔力も無限なのかと思うほどの高速機動と技、魔法の連打を魔物を仕留めるまで続けてみせたのだ。
定期的に治癒術師の少女が行使していた魔法が、その人間離れした高速機動とその連続を可能にするスタミナを実現していたとみてまず間違いないだろう。
鈍重な動きゆえにいつでも再拘束が可能なデモンストレーション用の歳経た魔物が、まさか倒しきられるとは在校生はもちろん、教師陣とて誰1人として思ってはいなかった。
だが盾役が魔物の攻撃を完璧に防ぎ、攻撃役が素早く削り、回復役がその高速機動を可能とする。
誰もがド派手な4人の戦闘機動に度肝を抜かれた。
それがまだ幼さの抜けない、13歳になったばかりの少年少女たちよってなされたとは我が目で見ていてさえ、俄かには信じがたいほどの手慣れた戦闘だったのだ。
だがこの上級生は自分でそう口にしたとおり、そんな戦闘を目にしていながら一見すれば何もしていないようにしか見えなかったソルをこそ、天才だとみなしている。
まだ幼いソルは、この上級生の慧眼に気付けない。
すごい4人のおまけだから、多分ソルのこともすごいと思っているのだろう、程度の認識である。
「先輩ほどじゃないですよ。『無限剣閃』のラルフ・ヴェルナー生徒会長」
なによりもソルが今口にしたとおり、この先輩――ラルフ・ヴェルナーが超のつく有名人、少なくとも現時点では「ロス村の奇跡の子供たち」ですら比べ物にならないくらい、国から将来を嘱望されている「英雄の卵」だからというのが大きい。
余裕のある大人である先輩が、しょぼくれた後輩を慰めてくれている図式というわけだ。
12歳から15歳という成長期において、2年の差はあまりにも大きい。
3年生の先輩と1年生の後輩の間には、まさに大人と子供ほどに体格にも精神にも成熟度に差が生まれるのだ。
「ありゃ、俺も有名人?」
「嫌味にしか聞こえませんよ」
そう言って笑う先輩に、ブスくれた顔で後輩が応える。
エメリア王国において軍人や冒険者稼業をしている者、つまり能力者でありながらラルフ・ヴェルナーの名を知らぬ者などいはしない。
この亜麻色の髪と瞳をした美青年は真に「神に愛された子供」として、『勇者救世譚』にて千年前に世界を救ったと語られている『勇者』の再誕とまでいわれている存在なのだから。
15歳にしてすでに名を成し、『勇者』の再誕とまでいわれながら自身を「才能に恵まれなかった者」とみなす先輩。
一方、自らが得た力が規格外である事は理解しながらも、幼さゆえにわかりやすい強さに憧れることを止められない後輩。
この2人の偶然の、あるいは必然の出会いにより、やがて世界の理すらも覆す『プレイヤー』をその身に宿したソル・ロックは、王立学院において大きく成長することになるのだ。




