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【書籍版6巻発売中!】怪物たちを統べるモノ ~能力『プレイヤー』使いは最強パーティーで無双する!~【コミカライズ2巻発売中!】  作者: Sin Guilty
第三章 『死せる神獣』編

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第131話 『君臨』①

 想定通りとはいかぬまでも、どうあれ『死せる神獣(アヴリール)』も完全にソルの手札となった。

 それどころか本来は不可能であった『黒化』さえも手に入れている。


 これでソルが『召喚』の際に選択を迫られた5枚の『手札(カード)』のうち、3枚までが揃ったことになる。


 圧倒的暴力である『全竜ルーンヴェムト・ナクトフェリア』

 またその結界は何者にも破ること能わず、ソルにとっての最強の矛と最硬の盾を兼ね備えている。


 『世界樹』を司り、再び世界に満ちた外在魔力(アウター)を支配する『妖精王アイナノア・ラ・アヴァリル』

 その権能を活かして戦闘においては味方を有利にし、敵を不利とする領域を展開する。


 そして『神獣アヴリール』


 白だけではなく黒も手に入れた『神獣』がなにを得意とするのか、その取り戻した真躰(アウゴエイデス)を以ていろいろと実証実験を重ねなければならないソルである。


 おそらくはこの地上には存在していない残りの2枚――『虚ろの魔王』と『呪われし勇者』を手に入れるためには、そろそろ本格的に4大迷宮の攻略を開始する必要があるだろう。


 それだけではなく『秘匿神殿圕(ビブリオテカ)』で取得した膨大な蔵書のデータ化と共有も喫緊の課題でもあるし、ソル専用の『固有№武装(ナンバーズ)』の作成も急ぎたい。


 急ぎ保護した獣人種(セリアンスロープ)たちをどう扱うかの問題もあれば、妖精族(エルフ)を頂点とする亜人種(デミ・ヒューム)たちとの会合も一度きちんと開く必要がある。

 ソルの国の立ち上げももちろん並行して進んでおり、なにしろやらねばならないことが多いのだ。

 

 とりあえず獣人種(セリアンスロープ)の暴走問題については『神獣』の完全化に成功したためまずは問題ないはずだ。


 『プレイヤー』の恩恵を得た、あるいはこれから得る候補の選出と管理についてはスティーヴが中心となって冒険者ギルドが精力的に進めてくれている。


 『聖教会』の掌握については聖都アドラティオでの様子を見る限り、イシュリーが問題なく進めてくれているようだし、数日のうちに考古学者たちを引き連れてエメリア王国王都グランメリア入りするだろうから、『秘匿神殿圕(ビブリオテカ)』の件はイシュリーとフレデリカに任せればいいだろう。


 裏社会の掌握はエリザというよりも、ヴァルター翁が水を得た魚と言わんばかりの勢いで各国のそれを再編し、()()()()の後にエリザ組へと組み込んで行っている。

 もとより暴力で決着をつけやすく、大きな組織が頼みとしていた「表」――国家権力がまるで通用しない今、裏の再編の方がよほど進めやすいのかもしれない。


 ガウェインは寝る間も惜しんで『固有№武装(ナンバーズ)』の製作に没頭しており、そのおかげで『神獣暴走事変』を大きな被害を出さずに乗り越えることができたといっても過言ではない。


 適合者がいようがいまいが、片っ端からカタチにしてゆくつもりのようだが、ソルの提案した「能力に恵まれなかった者」に対して、『プレイヤー』の恩恵を受けずして魔物(モンスター)と戦えるようにするというコンセプトにはえらく興味を示している。


 一人の武器職人としては、己の造り上げたものだけで完結して魔物と戦えるというのはそれほどに魅力的なのだろう。


 今のところ希少魔物素材の入手だけではなく、ガウェインが創り出したすべての魔導武器は神から与えられた能力か、『プレイヤー』から与えられた能力がなければ機能しないものばかりなのだ。

 それはなにもソルと知り合って以降の話ではない。


 それが己が組み上げた武器によって、神憑りの力に恵まれなかった凡人でも魔物と戦えるようになるとなればやる気が出るのも当然なのかもしれない。


 ことほど左様にやることは山ほどあるが、それぞれ最速最善で進んでいることも確かなのだ。


 こうなってくるとはやはりソルにとって頭が痛いのは一つになる。


 つまり表面上はエメリア王国への従属を表明している汎人類国家連盟の各国家と、そこにさえ属していなかった独裁国家の首脳部が集まって王都グランメリアで毎日開催されている『世界会議』である。


 現エメリア国王エゼルウェルド・カイン・ラ・エメリアが取り仕切り、正式に王太子となった第一王子フランツが議長を務めるこの会議はまあ結論が出ない。


 (へりくだ)りながらも腹芸の応酬に終始しており、エメリア王国が最も利益を得ることについては誰一人異議を唱えないにもかかわらず、それ以外の各国間の調整がいつまでたっても終わらないのだ。


 見かねたマクシミリアが元王位継承権者第一位として冒険者活動を停止してまで協力しているが、焼け石に水の状態である。

 終いにはスティーヴやイシュリー、フレデリカの出席を求めるまでになっていて、素人であるソルの目から見ても収拾がついていない。


「ガウェインさん、なんとかならないかな?」


 ガルレージュ城塞都市のすぐ側で発生した『神獣暴走事変』を収めたソルたちは、この地にあるガウェインの工廠を訪れている。


 すでにソルの『異相空間』の中で分類と翻訳が完了している『秘匿神殿圕(ビブリオテカ)』の蔵書の中でガウェインが必要とするものについて、優先的に情報提供するためだ。


 だがそれとて数百万冊の数に上り、ガウェインはその検証をクリードに丸投げしたところである。


 珍しく陽の高いうちに手を休めて茶をすすっているそのガウェインに対して、ソルが弱音を吐いている状況というわけだ。


「儂に聞くなよ現人神様。ソル様の一喝で治めりゃいいじゃねえか」


 本の分類すら諦めた自分に対してなにをいっとるんだとばかりにガウェインが笑い飛ばす。


 今はそんなことよりも残りの『固有№武装(ナンバーズ)』の完成と、ソルが『大深度地下空間(ジオ・フロント)』へ至る迷宮で狩って来てくれたメタリック調の魔物素材の活用に忙しいのだ。


 魔力伝達率とその反射が通常の素材に比べて桁違いのそれらを使えば、すでに運用開始(ロールアウト)しているリィンたちの『固有№武装(ナンバーズ)』の性能も跳ね上がるとあっては、夢中になるなという方が無理だろう。


 『御前会議』のメンバーになる事すら辞退しているガウェインに、政治のことで頼るソルが間違っているといえる。


「問題点の説明を理解できるようになる教育を受けるだけでも、どれだけかかることやら……」


 ガウェインの言うことは正しいのだが、ソルよりもよほど国際政治に通じているエゼルウェルドやフランツ、マクシミリアがなにに苦慮しているのかを正しく理解してからでないと、「ソルなりに正しい答え」も出せそうにない。


 勉強にはあまり自信のないソルがへこたれているのだ。


「褒美を望んでよろしければ、(わたくし)が御協力致しましょうか?」


「魔族の言う褒美って怖いな……」


 それを見かねたものか、現状もガウェインの製作に全面的に協力している魔族、クリードが苦笑いを浮かべながら協力を申し出る。


 ガウェインの片眉が跳ね上がったのは、こう見えてクリードは真面目な職人気質であり、理論だけではなく実践においてもガウェインが頼りにできる助手になりつつあるからだ。


 だが「ソルの手伝い」か「自分の手伝い」かを比べれば、どちらを優先すべきなのか程度はガウェインも弁えている。


「一番恐ろしい御方がなにを仰いますやら。過分なものを求めるような愚かな真似は致しませんよ」


 ソルの机に突っ伏したままの警戒に対して、本気で笑いながらクリード応える。


 そんなことをしようものなら、その気になれば一瞬でクリードなど消し飛ばせる全竜(ルーナ)はもとより、今回の一件でソルにより絶対の忠誠を誓っているらしい神獣(アヴリール)になにをされるかわかったものではない。


 そんな怪物たちを統べるソルこそが、おべっかでもなんでもなく魔族などよりもよほど「恐ろしい」のだ。


「私を含めて現存している魔族全員が、ソル様にお仕えすることを御許しいただければそれで」


「すでにそうじゃないの?」


「明確にお言葉にしていただいてはおりませんから、みな震えておるのです。我らの眷属がソル様にしたことをみな存じておりますから」


 クリードの求める褒美は、ソルにしてみればささやかに過ぎるものだった。


 だが淫魔(サキュバス)が明確にソルと敵対したことを知っている以上、明言してもらうことを望むというのは魔族側からすれば、まずはそれ以上の報酬はないのかもしれない。


 淫魔(サキュバス)のしたことを種全体の責任とされたところで、異を唱えるだけの力を持たなければどうしようもないのだから。


「ああ、じゃあここで明言します。クリードさん以下、現存する魔族はみな僕の、えーと……」


「従僕でお願いします」


「従僕とします」


「ありがとうございます」


 今この場には全竜(ルーナ)妖精王(アイナノア)神獣(アヴリール)が揃っており、国政に関わるフレデリカもいる。

 ここでの明言は公的な宣言となにも変わらないのだ。


 特にクリードにしてみれば、これで全竜と神獣がソルの許可なく魔族をしばき倒すことができなくなったというのが大きい。


 序列が違うことなど重々承知してはいるが、それでも全竜と神獣と同じソルの『従僕』となれたのであれば、現存する魔族の暫定的な長であるクリードにしてみれば願ったりなのである。


「それだけだとあれなので、ほんとうに会議をどうにかしてくれたらクリードさんの魔導器官(オルガナ)をなんとかしましょうか」


 ソルの従僕と看做されることの利点をある意味一番理解していないその本人が、追加の報酬を提案する。


「全竜殿と違い、私の場合は一度失われたものを再生するのはかないません」


 だが奪われ、四大迷宮の最深部に封印されている全竜(ルーナ)魔導器官(オルガナ)とは違い、自ら砕いた魔族の魔導器官(オルガナ)は再生不可能なのだと、すこし寂しそうにクリードが告げる。


 千年前には魔神とまで呼ばれた己がほぼすべての力を喪失していることは、生き延びるためには必須の処置だったとしてもやはり思うところはあるのだろう。


「だったら僕らと同じように人造魔導器官(ニア・オルガナ)で補うとか……ガウェインさん、できるよね?」


「クリードならとんでもねえ数の光輪(ニンブス)が浮かびそうだが、できなかねえな」


「じゃあそれで」


「……よろしいのですか?」


「いろいろ協力してもらわなきゃならないし、それくらいは」


「感謝致します」


 本気でクリードは深々と頭を下げる。


 古の魔神の復活。


 それが人間たちの踊る会議を収めるだけの報酬としてしまえるソルという絶対者の存在に、クリードは邪気なく笑いを漏らす。


 これであれば、絶望の果てに虚ろに囚われた()()()も、あるいは千年前のように笑えるようになるのではないかと期待して。


 だがその結果、気合の入りまくったクリードによって、今なお変わらず世界の支配者気取りで会議を続けていた各国のトップたちは酷い目にあうことになる。

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