第128話 『神なる獣』③
すでに発動回数が二桁に及ぶ『神獣』の大技、連続照射系の攻撃を、九つの大盾が放射線状に一体化し魔法陣も伴った『超巨大盾』が完璧に防ぎきる。
予備動作が大きく、射出中は身動きのできない連続照射系の攻撃は、リィンの№Ⅸ:モデル【九頭竜】が制御する九つの大盾、その最大防御形態に対して相性が悪すぎるのだ。
本来であれば『神獣』自体は動けずとも首の可動範囲内で自由自在に射線を操り、周囲を薙ぎ払うことによって盾役以外に攻撃を通すか、防御対象へ被害を生じさせることが可能となるのが連続照射系の優位点だ。
実際『神獣』はリィンがガルレージュの城壁を背にするしかない位置取りをしており、リィンは倒せずとも城塞都市に甚大な被害を及ぼすべく立ち回っている。
だが如何に『神獣』の真躰が巨躯を誇ると言えども、その頭部に数倍する『超巨大盾』が、視界を遮るほどの至近距離に展開されてしまえばどうしようもない。
その盾すら砕ける単発型の巨大光弾は『絶対障壁』一枚で簡単に無効化され、連続照射系と単発型それぞれにわかりやすくかなりの溜めも必要な準備動作がある以上、リィンの判断ミスを誘うことも難しい。
「やっ!」
しかも大技の撃ち終わりには遠慮のなくなったフレデリカの№Ⅴ:モデル【百腕巨人】による呵責ない連撃が叩き込まれ、大地にすっ転がされた上で吹っ飛ばされる。
「えい!」
木々を薙ぎ倒して吹き飛んだ先へエリザの№Ⅶ:モデル【深淵蜘蛛】の『魔糸』による行動阻害を重ねられ、しばらくは動けなくなってフレデリカの連撃を喰らい続けるしかなくなるのだ。
もはやこの一連はパターン化しており、確実に『神獣』は削られ続けている。
まだ大技も温存しているのはリィンたちの方であり、このまま戦況が推移すればいずれ無力化されるのは己の方だと『神獣』もすでに理解できている。
ゆえにしばらく前からは隙を見て逃げようとしているのだが、その隙は天空からの『神の雷』で封じられ、結局は同じ場所で同じような攻防を繰り返すしかなくなっているのだ。
だが今回もなんとか『魔糸』による拘束を引き千切り、九つの尾による攻撃を四方八方にばらまいて九つの盾をその防御のためにばらけさせる。
この状態では『神獣』に大技後のような隙は無く、フレデリカもエリザも不用意に攻撃を仕掛けられない。
リィンも防御一辺倒であり、ここでの選択権は『神獣』側にある。
だが今まではここで逃げようとすると『神の雷』が叩き込まれ結界障壁でそれを防ぐことに注力せざるを得なくなり、その後の隙を突かれてフレデリカにすっ転ばされる。
なればと大技の溜めに入れば、先と同じ展開で結局はフレデリカにすっ転ばされるのだ。
詰んでいる。
だが今回はなぜか『神の雷』が降り落ちてくる様子がない。
千載一遇のチャンスとばかりに森の方へ駆け出そうとした『神獣』の周囲が、突如薄く水色に染まる。
それがあっという間に色を濃くしてゆき、わかりやすく巨大な半透明な水球となって『神獣』をその中心に封じ込めた。
とはいえ規模こそ大きいが、これはただの水である。
ただ術者がその気になれば、いつでも『神獣』の全身をびしょ濡れにできるぞという単純な結界に過ぎない。
だが如何に神なる獣と呼ばれていようとも、神獣アヴリールの基は御猫様であることに変わりはない。
自慢の毛皮が水でびしょびしょになり、ぺったりしてしまうことを想像すると怖気あがって本能的に硬直してしまうことは止められない。
「♪~」
周囲に聞きなれた澄んだ声が響き、これが『妖精王』アイナノア・ラ・アヴァリルによる『領域支配』の一種であることをリィンたちは理解する。
それと同時、遥か上空から全竜ルーンヴェムト・ナクトフェリアの魔創義躰が轟音と共にその水球結界の前に降り立ち、暴走状態の『神獣』を睥睨する。
その魔創義躰の前にルーナとアイナノアと共にソルが浮かんでいる。
ちょうど『神獣』の頭の高さあたりだ。
「ソル君!」
「おまたせみんな。よく持ちこたえてくれたよ、ありがとう」
逃げに転じた『神獣』を逃すまいと慌てて追いすがっていたリィンたちが、それを確認して歓喜の声を上げる。
油断はしない。
だが自分たちの仕事は完了し、その出来はソルが感謝の言葉を伝えてくれるほどのものだったということに皆が安堵している。
一応は『神獣』の四方を囲む位置を取り、『固有№武装』の展開を解除したりはしないが、よしんば全竜の目前から逃げられる相手だというのであれば自分たちにどうこうできるものではないという割り切りもある。
確かにリィンとフレデリカの二人で魔創義躰相手に半刻持たすことは出来るが、勝てるという意味ではない。
しかもソルとルーナが必要だと判断すれば、その魔創義躰は必要な数だけ増えるのだ。
一度全竜の間合いに捉われて、勝てる相手も逃げ切れる相手もいるとは思えない。




