二人目
「いらっしゃいませ」
戸を開けたのは、亜麻色の髪を結んだ女の子。
雑多な店内の様子を見渡し、「わぁ」と呟いて大きな目をぱちくりと瞬かせる。店主は静かに煙を吐くと手にしていた本を棚に戻し、煙管の火を落として立ち上がる。少女はその影にぎょっとするも、その顔に浮かぶ柔らかな微笑みにぱっと表情を綻ばせた。
「こんにちはっ」
「はい、こんにちは。おつかいかな?何か、欲しいものある?」
店主はにこやかに膝を付き、少女と目線を合わせる。少女はハッと何かを思い出したようにポケットに手を突っ込むと、何枚かの鈍い色をしたコインを手のひらに広げた。
「お花、ください!」
輝く瞳。晴れやかなその顔に、店主は笑みを返す。
「プレゼントかな?それとも、お家の花壇に植えるお花かな?」
「えっと、えっとね。これからママに会いに行くの。だからね、おみやげにきれいなお花を持っていきたいの」
「うんうん。そっかぁ。それじゃあ、花束にしようか。どんなお花がいいかな?」
「あのね、わたしは真っ赤なお花が好きだけど、ママは黄色いお花が大好きなの!だから黄色いお花がいい。ある?ますか?」
「もちろんあるよ。ママが大好きな黄色いお花、とびきり綺麗なやつを持って行ってあげようね。それじゃあ、ちょっと待ってて」
そう言うと店主は優しく微笑んで少女を撫でると、その小さな手からコインを受け取り、軽やかに店の奥へと消える。一人残された少女は静かに椅子に腰掛け、きゅっと口を結んで俯くが、すぐに戻ってくる足音にはっと顔を上げた。
その手には、丸い花びらが重なり合う黄色い花。少女の手にも持ちやすい大きさの、可愛らしい花束である。少女が表情を綻ばせた。
「わぁ、かわいい!」
「これはね、ずっと幸せでいられますようにっていう願いが込められた縁起のいいお花なんだよ。どうかな?」
「うん、それがいい!とってもすてき」
「それじゃ、はいどーぞ。落とさないように持っていける?」
「だいじょうぶ!ママ、喜んでくれるかなぁ?」
「うん。きっと喜んでくれるよ」
柔らかく微笑む店主に、少女も満面の笑みを返す。
「ありがとっ!それじゃ、ばいばい」
「うん、気をつけてね」
最後まで笑みを絶やすこと無く、店主は駆けてゆく少女を見送る。
そうしてその姿が見えなくなった頃、少し退屈げに「ばいばい」と呟き、店主は静かに戸を閉めた。
お題:「手向けの花」を買いに来た「女の子」




