第35話 人気Vtuberの顔出し
当日、なぜか俺はてぃもきの自宅に招かれていた。オンラインでもコラボはできるはずなのだが、会話のテンポを崩したくないというてぃもきの要望の元会うこととなった。てっきりスタジオか何かを借りるものだと思っていたのだが…
「待ってたよ、いらっしゃい」
出てきたのは女性だった。長い黒髪に透き通るような瞳、一瞬で吸い込まれそうな魅力が彼女にはあった。今は声も自由に変えることができる。この魅力、きっとこの人こそてぃもき
「あ、どうもてぃもきです。よろしく」
部屋着のおじさんが奥からひょっこり顔をのぞかせた。俺は震える目をそらす。
「え、じゃあこの人は…」
「妻です。夫ったら、あなたに会うのすごく楽しみにしていたんですよ?」
脳がひび割れる感覚に襲われたが、何とか俺はおっさんの部屋へと進んだ。
「んじゃ機材だけセッティングしてもらって、準備でき次第始めよっか」
こうして俺はてぃもきとコラボ動画を嫌々取ることにした。しかし実際に始めてみると、プロの名は伊達じゃないことに気づく。会話のキャッチボールに見せつつ、うまくパスを運んでくれるのだ。
そのおかげでこっちも饒舌になる。視聴者のコメント欄も過去一の盛り上がりを見せ、大盛況のまま配信は幕を閉じた。
「ふうっ、おつかれさま!」
「とても楽しかったです!本当にありがとうございました」
心からのお礼だった。汗ばんで頭皮の地表が見えるおじさんがかっこよく見える。俺は機材を片付け、部屋を出ようとした。
「あ、ちょっと待っててもらえるかな?」
そう言うとてぃもきはずさんに置かれたハンカチを机から引っ張り出した。何の変哲もないハンカチである。
「今マジックの練習をしててさ、こういう職業だと妻以外見てくれる人がいないからジャック君の意見を聞きたいんだ!」
「はぁ、わかりました」
俺がそう答えるとてぃもきの顔と頭皮がぱぁっと光輝いた。
「じゃあ行きます。このハンカチを見てください。何の変哲もありません」
俺は手渡されたハンカチを触って確認したが、普通のハンカチそのものだった。
「ではこのハンカチでいろいろなものを隠してみましょう。好きなものを選んでください」
「あ、じゃあこのパソコンで」
「OK!」
そう言うとてぃもきはハンカチをパソコンに掛けた。
「ここからオウムが出てきます!」
そんな馬鹿な。おそらくおもちゃを仕込んでいるのだろう。俺は全力で笑えるよう表情筋に力を入れた。
「1・2・3!」
「グェェ!!」
「えぇっ!?」
なんとハンカチとパソコンの間から本物のオウムが出てきたのだ。それもめっちゃでかい。
「驚いただろ。どんどんやっていくよ!」
そう言うとてぃもきは部屋のいろんなものにハンカチを掛け始めた。その中からはウサギやハムスター、カブトムシや柴犬まで出てきた。
「これめちゃくちゃ凄いですよ!!」
俺はわんこにお手をしながら驚嘆していた。てぃもきはにまにまとうれしそうに笑っている。
「満足いただけたかな?」
「満足なんてもんじゃないですよ! 出てくる数がほぼ動物園じゃないですか!」
てぃもきはひとしきり笑った後、口を開いた。
「じゃあ次が最後のマジックになります」
てぃもきは自分の顔にハンカチを掛けた。
「今までは物から出てきたけど、人の顔だとどうなるかな?」
ははーん、さては口から何か出すつもりだな?よし、絶対種を暴いてやる。俺は彼の口元を凝視した。
「3・2・1!」
口に何かを入れているとは思えない軽やかな口調でてぃもきは叫んだ。
「…。」
なにも出てこない。周囲を確認したが飛び出した形跡もなかった。
「失敗ですか?」
俺がてぃもきの方を振り返ると、そこには驚きの顔があった。
お読みいただきありがとうございます!次回、ついにてぃもきの正体が明らかに!




