第31話 心の中で生きる
「……え、ひぬさん!?」
布団に横たわる俺の前に立っていたのは、他でもないひぬさんだった。夢か? いや、夢でも構わない。また会えたことが何より嬉しかった。
「何やってんだい、私が死んだくらいで」
「いや、でも……」
ひぬが死んだことは俺にとってかなりの衝撃だった。人間の弱さを目の当たりにした。ついこの前まで笑顔だった人がいなくなるのが怖かったんだ。
「いいかい、よく聞きなさい」
ひぬは俺へと向き直る。俺もつい背筋をピンとただした。
「私は確かに死んだけど、死ぬ前にアンタと話せてよかったと思ってる。あんたの心の中で私は生きてるからね」
心の中で生きている? どういうことだ? 元怪獣の俺には納得できない。食われた、倒された生き物が思い返される事は無いと思っていたからだ。
「分かってないみたいだねぇ」
「ごめんなさい」
「いいよ、あんた人間じゃないだろう」
急に言い当てられて俺はビビった。ひぬにはずっと人間として接してきたからだ。
「な、なんで……」
「生きてるときから気づいてた、老人なめんじゃないよ」
ふぅ、とひぬはため息をつき、続けた。
「私が今ここにいるってことは、あんたの中に私が残ってるってことさ。人は誰かに忘れられない限り、その人の中で生き続けるんだよ」
死という概念を俺は誤解していたのかもしれない。生物としての死と人間としての死は違うんだ。怪獣でも?
「後悔はないけど、強いて言うならぶいちゅーばーが出来なかったことかな。あんた、貰ってくれないか?」
「あ、うん。取っておけばいい?」
「お前さんが使うんだよ! 私の夢を継いでおくれ。どうせやることないんだろう」
最後の言葉が突き刺さる。俺はひぬから機材の場所を聞き、メモした。
「そろそろ時間だ。じゃあね」
「ひぬさん!」
「礼ならいらないよ!」
そう言うとひぬはニカッと笑って光に包まれた。何か口を動かしている?
(……ありがとう)
唇の動きはそう言っているように見えた。涙が止まらない。
「こちらこそ、ありがとう」
ひぬがいなくなった部屋で、俺は1人呟いた。文句が返って来ないことが、ただ寂しかった。
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