第30話 人間の弱さ
「……ひぬさんが亡くなった?」
それは俺にとってあまりに急で、衝撃の知らせだった。
「田中さん、ひぬさんと仲良かったからね。お葬式に出てあげてほしいの」
葬式の意味も知らずに俺は頷いた。気が動転していたんだ。
怪獣の寿命は長い。俺は生まれてこのかた、死んだ身内を見たことがない。
「ほら、最後にご挨拶してあげて」
静かな部屋に通されると、そこには綺麗に化粧をしたひぬさんが横たわっていた。部屋の外からは焦げ臭さを感じた。
俺はここが火葬場で、これからひぬ婆さんが焼かれることを本能的に悟った。
「あれ、なんでかな」
涙が止まらない。この塩気は、怪獣では感じることがなかった。
涙は弱い生き物の財産なんだ。そう思うと、より目の前のひぬ婆さんが弱々しく見えて耐えられなくなった。
そこから俺は、年寄りの見回りボランティアをやめた。
「大丈夫かい?」
吾朗やボランティアで仲良くなったお年寄り達が心配で訪れる。俺はまだ、心を開けずにいた。
今日も俺は、何もせずに寝る。天井を見上げながら、ただ存在していた。
こういうときに宇宙とかバカでかいものについて考えちゃうのって何でなんだろうな。
「何してんだい、寝っ転がって」
「え?」
声が聞こえた。まだ眠ってないのに、あの声が。




