02.この答えは題意を満たす
死んだ後、誰かに会った。エリーは確かにそう言った。
もしも、これが何者かの仕業だとすれば……それは僕にも当てはまるのではないだろうか。
思い出せ。僕は、異世界に来て最初に何をしたのかを。
木の形をしたモンスターに遭遇して、エリーに助けられて……いや、もっと前だ。
そうだ……手紙だ!
『おとすとこまちがえちゃった てへぺろ ***』
何故だろう。どうしても最後の3文字だけが浮かんでこなかった。
だが、「おとすとこ」……この部分だけでも、僕をこの世界に「落とした」者が存在することは明らかだ。
つまり、覚えていない3文字は……名前だろう。
しかしながら、これで確信した。
「やっぱり、僕達をこの世界に送った人が……いるはずだよ」
これだけは……確定事項だ。それでも、不可解な点が多すぎる。
まず、どうして誰も存在を思い出せなかったのか。そして、名前を思い出せないのか。
まるで、当の本人が名前を隠しているかのようだ。
心当たりがないかと、ルナとアキの方に目を移す。でも、2人とも首を横に振った。
「カズヤ、これ……読んで……」
エリーがスカートのポケットから取り出したものを僕に押しつけた。それは、小さなノートだった。
「あんまり読んで欲しくないけど……それ、私の日記帳よ。こっちの世界に来てからのね。読み返してないから覚えてないけど、もしかしたら……残ってるかも」
えーと、昨日のページには……「数八と遊びまくった。楽しかったけど、疲れたから今日の日記はもうこれでいいや」との記述が……って、おいおい。
むしろ、他の日はどんなことを書いたのか、気になってしまった僕は、1ページずつ日記帳をめくっていった。
「カズヤさん、エリーさんが言ってるのって……最初のページを読めって意味じゃ……」
「え? あ! 何で勝手に他の日の読んでるのよ!!」
だって、ページを指定してなかったでしょ。範囲が決まってるなら、きちんと明言してくれないと。
地味にツボだったので続きを読みたかったが仕方ない。というか、今はそんな場合じゃなかった。一旦表紙に戻り、そこから紙を1枚めくった。
異世界に来てしまった。階段でコケて、床に頭打って死ぬなんて、最悪だ。
小説も頑張って書き終えたのに、応募できなかった。手伝ってくれた数八に申し訳なかった。
これからどうしよう。異世界系のラノベによくある手順でも踏んでおけばいいのかな。
よくある、といえば……さっき女神に会った。私の願いを叶えてくれるって。1年待って欲しいって。
目と髪が「いかにも」だったけど、テディって名前は可愛かった。
これからどうなっちゃうのか、想像もつかないけど、頑張ろう。
2人で書き上げた、あのファンタジー小説。人々の目に触れることなく終わってしまった。
その悔しさが、はっきりと伝わってきた。
でも、それと同じくらいに……大切な情報が、彼女のポケットに眠っていたのだった。
「テディ……」
その名前を口にした瞬間、ぽっかりと空いてしまっていた記憶の穴に、その時見たもの、聞いたものが蘇ってきた。
酷い見た目のぬいぐるみ。喋っているのは女神。
そして、僕に課された2択の問い。
もしもあそこで、「元の世界に戻る」を選んでいたらどうなっていたのか。
過去の選択を考えても無駄だろうが……今なら言える。
多分、「どっちを選んでも死んでいた」だろう。
「私も……その女神に会いました。何で思い出せなかったんだろ……」
「確かに……『願いを叶えてあげる』……って……言われた……」
その名前を聞いて、アキとルナの閉ざされた記憶の扉が開け放たれた。
「願い事……1年……まさか……私……!!」
急に大きな声を上げて、両手で顔を覆うエリー。何を思い出したのだろうか。
失われていた記憶が、その名前によって一気に戻ってきたのだ。
もう答えは近い。そう思った時だった。
背後から、手をパチパチと叩く音がした。
「アハハ、流石はカズヤ君。ほぼ正解だよ」
銀色の髪を揺らしながら、赤く輝く目でこちらを睨みつける。その姿は、どこか不気味だった。
「えっと、どちら様で……」
「て、テディよ!! 話の流れで分かってよ!! 何で自己紹介しなきゃならないのよ!!」
聞き覚えのある声だった。あの時、ぬいぐるみを使って話してた、その声とそっくりだった。
他の3人は……あ、もしかして本当の姿を知らないの、僕だけだったり……。
「それで突然、女神が何の用なの?」
エリーが強気の姿勢でテディに、煽りともとれる質問をぶつけた。
「あれれ? エリー、君が1番分かってるんじゃないのかな~」
僕とルナがお互いに目を合わせる。アキも珍しくきょとんとしていた。
エリーが、何か知っているのか?
「そろそろ、答え合わせといこうか」
「お願い、待って!!」
真実を聞きたくないのか、テディに掴みかかろうとするエリー。しかし、ひらりとかわされてしまっていた。
何事も無かったかのように、僕の目の前に来て、テディは呟いた。
「これが真実さ。君が死んだのはね……」
場に緊張が走る。僕が死んだ原因? 偶然ではないのか?
「あの子のせいなんだよ?」
テディの指は、床に座り込んでいるエリーに向いていた。




