九十九話 知覚力の極み
その頃、光葵は志之崎と一進一退の戦いを続けていた。
「前より、かなり魔法の威力が出てるな……」
光葵は魔法を放ちつつ言葉に出す。
「お前達に報復するために魔法を奪ってきたからな……」
志之崎は静かに殺意を滲ませる。
「そうか……。でも俺も負けられない……! 《合成魔法》《火炎魔法×闇魔法×風魔法――灰燼砲》……!」
光葵は灰燼の浸食を纏う風の大砲を放つ。
「《風魔刀――駆天乱斬》!」
志之崎は迎え撃つために、空中で乱反射する暴風の刃の塊を放つ。
魔法同士が衝突した瞬間、とてつもない風切り音がする。
そして威力、キレが上だった駆天乱斬が灰燼砲を打ち破る。
駆天乱斬に追従する形で、志之崎が光葵の目の前まで迫る……。
猛烈な風切り音、風魔刀の斬撃音が聞こえる。
「《合成魔法》《生成魔法×氷魔法――想像的生成、擬似聖盾アイギス》……!」
左手を前に出し、その一メートル程先に浮遊する形で聖盾が生成される。
中央にメデゥーサの首が模されている光り輝く盾だ。
凄まじい音を響かせながらも志之崎の攻撃を防ぐ。
「こんな魔法まで使うのか……。底が知れん男だな。だが、近距離では俺に分がある」
志之崎は更に突っ込んでくる。
「分かってる。お前と近接戦でまともに戦う気はない……!」
アイギス越しに志之崎に向かい《合成魔法》《風炎砲》を放つ。
志之崎はアイギスに押し出される形で二十メートルほど奥にある店に突っ込む。
そこに間髪入れず、《想像的生成、擬似神槍グングニル》を生成し投擲する。
神々しく光る槍が神速の勢いで轟音と共に店ごと破壊する――。
◇◇◇
近くでも轟音が何度も響いていた。
頂川とインビジブゴーレムの戦う音だ……。
「ゼェゼェ……。頑丈な上に速い。しかも修復もされるとなるとキツイな……」
頂川は息を切らす。
全身血まみれで額からはドクドクと血液が絶え間なく流れ落ちる……。
「もう、そろそろだね。次は天パのお兄ちゃん、次は赤髪のお姉ちゃん…………」
美鈴は殺していく人を頭に浮かべ、順番に並べていっているようだ。
「ハハ、俺もなめられたもんだな……。これでも番長張ってたんだぜ……! 仲間守れず、こんなとこで終われるかよ!」
頂川は叫びと共に《覚醒の霆》を極限まで高める。
自分の雷で身体が悲鳴を上げているのが分かる――唐突に意識が飛ぶ感覚がある……。
どういうことだ? 限界超えちまったのか……?
でも、自分の身体の輪郭がはっきりと分かる。なんだ、コレ。
自分の身体を廻るマナが把握できる……。損傷している箇所、逆に健康な箇所……。今なら超高精度のマナ操作ができる……。
瞬間、頂川は意識が覚醒する。
「あぁ……コレが綾島さんと目指してた『極み』か……。知覚力が……感覚が別物だ」
頂川はよだれを垂らしながら、放心状態で呟く。
「あれ? 金髪のお兄ちゃん壊れちゃった……? まあ、殺すけど」
美鈴は淡々と話す。
直後、ゴーレムの六本の腕による連撃が頂川を襲う……。
しかし、そこに頂川はいなかった。
「全部がスローモーションに見えるぜ……」
頂川はそう言い、ゴーレムの両足に《雷神鎚》を打ち込む。両足が崩壊し、ゴーレムは地に伏す……。
「ええっ……。何が起こったの?」
美鈴は素直に驚いた顔をする。
「悪ぃな。多分あんまり『この状態』維持できそうにねぇ。一気に決めるぜ」
次の瞬間、ゴーレムは身体中が雷神鎚による攻撃で崩壊していく。
「インビジさん!」
美鈴が叫ぶと同時に、頂川は美鈴の後ろに回り首に手を添えている。
「嬢ちゃん……。終わりだ。降伏しろ」
静かに、ただ一切の油断なく頂川は告げる。




