九十六話 メフィの過去
「そういえば〝禁忌魔法〟ってメフィさん言ってたけど、何でそんな魔法使えるんですか?」
光葵は単純に気になった点を尋ねる。
(…………君達とは契約した仲だ。話しても良いか……。私の昔話になるが良いか?)
「大丈夫! 逆に色々気になってた部分でもあるし……」
光葵は素直に答える。
(私が禁忌魔法《理の反転》を会得した理由は、五〇〇年続いた天使族対悪魔族の戦争で死んだ師匠を生き返らせたかったからだ……。最終的に戦争は天使族長と悪魔族長が話し合い停戦することとなった。その代わり、星の代理戦争にて〝人間族に代理〟で戦ってもらうことになったのだがね。コレは本来なら君達に言うべきではない情報だが、この際だから伝えておく。星の代理戦争は停戦以降、百年に一度行われている。今回で四度目になるんだ)
メフィは光葵達を信頼して話してくれているのが、伝わる口調だ。
「聞いておいて言うことじゃないけど、すごく壮大な話だな……」
光葵は思わず圧倒される。
(代理戦争の〝詳細〟は基本的に人間には知らせないからな。他言無用だぞ。他の者に話せばその時点で記憶やマナの知覚などの情報が消され、場合によっては死ぬことになるからな)
メフィは声をワントーン下げて、釘を刺すように言葉を刺す。
「わ、わかった。……それで師匠は生き返らせれたのか?」
光葵は正直ここが一番気になる。
もしできるなら、生き返らせたい人がたくさんいる。若菜、環、ルナ姉、道場のみんな…………。
(結論から言うと師匠は生き返らせれた。だが、先に言っておく。この魔法を使っても若菜や仲間を生き返らせることはできない……。なぜなら、エネルギー、マナの法則を無視した禁忌魔法であり、本来なら死者蘇生はできてはいけないことなんだ……)
メフィは悲しげに呟く。
「……そっか。そうだよな。メフィさんの話を聞いて、正直もしかしたらって思った。でもそんな都合の良い話ないよな……」
光葵は天から降りてきた一筋の糸がぷつん、と切れた感覚になる。
(落胆させてしまったならすまない。先に言っておく方が良いと思ってな……)
メフィがこちらを気遣ってくれているのがよくわかる……。
「いや、いいんだ。俺が勝手に思ってしまったことだから。それで、話の続きは?」
光葵は頭を何とか切り替えて、話の続きを促す。
(私は師匠をコールドスリープできるように氷魔法を応用した装置を作った。そして、二〇〇年かけて様々な魔法や現象を学び、死者蘇生の手段を模索した。その過程の副産物として、基礎魔法は闇魔法以外全て使えるようになった。最終的に辿り着いたのが《理の反転》だった)
メフィは少し間を空け、言葉を紡ぐ。
(自分でも死者蘇生は不可能とは思っていた……。それでも師匠には返しきれない恩義がある。縋るように《理の反転》を発動したよ。すると、どういう因果か師匠は息を吹き返した。師匠は怒っていたよ。マナの法則を無視することは禁忌だと。でも同時に泣いて抱きついてくれた……。私にはそれだけで十分だった……)
メフィはその光景を思い出したのか少し微笑む。
(二〇〇年……。途方もない歳月ですね……。今師匠は元気なんですか?)
影慈が質問する。
(生きてはいる……。だが、私と師匠の穏やかな時間はあっという間に終わりを告げた。マナの法則を無視した結果、マナの輪廻に綻びが生じたんだ。それに気づいたバロンス、天使達に捕まった。そして、師匠は牢獄に囚われた。私は天使位階を剝奪され、最も低い階級未満の〝堕天使〟まで堕とされた。結果、一番得意だった《光魔法》は奪われ、代わりに堕天したことで《闇魔法》が使えるようになっていた……)
メフィは悲しみがこちらにまで伝わってくる、静かに感傷に浸るような言い方をする。
「なっ……! 折角師匠が生き返ったのに、そんな仕打ち……」
光葵は思わず声が大きくなる。
(それは仕方のないことだ。禁忌破りは大罪だ。私も師匠も本来なら存在ごと消されてもおかしくなかった。悪魔族との五〇〇年戦争での師匠と私の功績への温情だと言われている)
メフィは仕方のない結末だと受け入れた話し方だ。
「でもよ……。そんな悲しい話あるかよ……」
光葵は思わず声が震える。
(光葵……。私は諦めた訳じゃないぞ。禁忌破りレベルの大罪は〝バロンス〟が最終裁定権を持っている。既に師匠は牢の中だが、私がバロンスとなれば外に出られるようにする。何があってもだ……! 師匠の今までの功績、牢獄に百年入っていることを考えれば不可能ではないはずだ……)
メフィは今まで聞いたことがない野心に燃える声を発する。
「はは……。メフィさん意外と強引に考えるんですね。……叶えましょう。その野望……!」
光葵は声を大きくする。
(だね! 僕達は負けるつもりはない。一緒に師匠を助けましょう!)
影慈も同様に声を大にする。
(……フフッ。そんな言葉が聞けるとはな。君達と契約できて良かったよ……)
メフィは静かに微笑む。
「面白かった!」
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