九十五話 理の反転
(あと、もう一つ伝えたいことがある。私の固有魔法に関することだ)
メフィは静かに話す。
(メフィさんの固有魔法……僕達が理解できるようになったのでしょうか?)
影慈が話に混ざる。
(うむ。今までの魔法の扱い……特に〝想像的生成〟を成功させたことには驚いた。固有魔法の理解、運用も修行次第では可能と判断した)
メフィは少しばかり嬉しそうに話す。
(よかった……。でも一体どんな魔法なんですか?)
影慈は気になる様子で尋ねる。
(名前は《理の反転》というものだ。そして〝禁忌魔法〟でもある)
「禁忌魔法? それってどういう……?」
光葵は思わず言葉になる。
(〝この世の理に反する魔法〟ということだ。まず、どういう魔法か説明させて欲しい……。この魔法は一言で表すと〝理、道理を反転させて状態を逆にする魔法〟だ。また、魔法使用時には〝手で直接触れる〟必要がある)
「難しそうな魔法だな……。具体的な使い方を教えてもらえませんか?」
光葵は尋ねる。
(もちろん伝える。《理の反転》の使用方法は主に三つだ。一つ、自分の回復。二つ、相手が全快状態に近いなら致死的ダメージを与えられる。三つ、敵の攻撃に使用し〝攻撃の意思〟を反転させて〝回復の魔法〟に変換できる。ただし、逆もまた然りだ)
メフィはわかりやすいように、ゆっくりと言葉を紡いだようだ。
(え~と、つまり一つ目の自分の回復は〝ダメージを相当負っている時〟に自分に使用してダメージの状態を逆転させられる……。分かりやすくゲーム風に言えば、減ってしまったHPと、今残っているHPを〝逆〟にして〝結果的に回復できる〟感じですか?)
影慈が頭を捻りながら確認する。
(そのイメージで良い。ちなみに、減ってしまったマナと、今残っているマナも〝逆〟になる)
(なるほど……。ゲームでいう、HP、MPが別個で、逆になるイメージですね……。二つ目の使用方法はさっき言ってたことの応用ですね。HPとMPが多い状態の敵に《理の反転》を使用し、一気に瀕死状態まで追い込める……)
影慈がまとめる。
「それって、めちゃくちゃ強くないか……?」
光葵は思わず口を挟む。
(そうだね。めちゃくちゃ強いと思う。やっぱり、それ相応の弱点があるんですか?)
影慈が冷静な口調で確認する。
(ああ。三つ目の使用方法も場合によっては弱点だ。〝敵の攻撃の意思〟を反転させて〝回復の魔法〟に変換できるが、逆に〝回復魔法〟をこちらに放たれてそこに《理の反転》を使用すると、その分のダメージを受けることになる。攻撃に織り交ぜられた場合などに注意がいる)
「なるほど……」
光葵と影慈は同時に声を出す。
(更に《理の反転》の弱点を二つ伝える。一つ、発動までの溜めが短いと〝使用するマナの量が格段に増える〟。二つ、〝短い期間に連続使用〟すると、だんだんと〝綻び〟が生じる。ゲームの話でいうHPとMPを逆転させることができるが、その逆転幅に〝ムラ〟が出てくるんだ。そもそも、エネルギー、マナの法則を無視した禁忌魔法だからな。使用を続けることで、その分綻びは大きくなっていく)
メフィは先程の影慈の例えも交えて説明したようだ。
(わかりました。使用するマナもやはり多いですか?)
影慈が気になった箇所を質問する。
(鍛錬次第ではあるが、溜めなしで使った場合、今の君達のマナなら三分の二は使うだろうな……。だが溜めの時間が伸びるにつれ、かなりマナは節約できる。戦闘を想定して五秒間《理の反転》にだけ集中した場合だと、マナの四分の一程度で発動できるだろう……)
メフィは淡々と事実を述べている印象だ。
(やっぱり、強力な魔法だけあってマナの消費、発動に関する条件なども考慮する点が多いですね……)
影慈が難しそうな声で呟く。




