九十四話 想像的生成
その頃、影慈は主人格を交代して、アジトから少し離れた山で生成魔法の修行を続けていた。
「もう少しで掴めそうなんだけど、何かが足りない。安定感を出すにはどうすれば……」
影慈は悩ましそうに声を出す。
(影慈のイメージは合ってると思うんだよな。あとは何か、〝核〟になるもので補強できれば形にできそうな気がする……)
光葵は感じたことを口に出す。
「核か……。あっ……補強できるようにすればいいなら『氷魔法』と組み合わせれば……」
影慈は静かに集中する。
「《合成魔法》《生成魔法×氷魔法――想像的生成、擬似神槍グングニル》……」
氷魔法で槍の形を模し、そこに想像するグングニルの特性を具現化させていく……。
五分程時間をかけ両手の上には影慈のイメージするグングニルが生成されていた。
「やった……! できた! できたよ、みっちゃん!」
影慈はつい大きな声を出してしまう。
(おお! すごいぞ影慈! ついにだな!)
光葵も興奮して声を大きくする。
「あとは威力だね。近くで金髪君と綾島さんが修行してるんだったよね。音大丈夫かな?」
影慈が首を傾げる。
(う~ん。まあ、山奥の方だし、あの二人なら音がしても大丈夫じゃないかな)
光葵が少し考え、言葉にする。
「そうだね。そもそも威力が出るかも分からないし……」
影慈はそう言い、グングニルを構えて少し離れた岩に向けて投擲する。
投擲動作に入った瞬間に知覚する。この槍は影慈が生成して作ったものだが、イメージの先をいく潜在能力を持っているということを……。
投擲後、一瞬にして岩が砕け散り、奥にあった大木をも貫いていた。
そして、一度の投擲でグングニルはマナレベルで分解され消失していった……。
「コレって……」
影慈は思わずぽかんとする。
(大成功だろ、影慈!)
光葵の声が聞こえる。ただし、影慈の驚きが勝っているからか、どこか遠くから聞こえているような錯覚すらある。
「…………でも、一回の投擲で消えちゃった。生成魔法なら残り続けるはずだけど……」
影慈は気を取り直して、現状を分析する。
(う~ん。流石にグングニルの構造まで理解して作ってる訳じゃないからな。想像的生成を維持できるのは短時間なのかもしれないな……)
光葵が予測を話す。
「それもそっか……。生成まで時間がかかるのも何とかしないとだね。あと、もう一つイメージできてる防具もあるんだよね。そっちも練習しよう!」
影慈は気合を入れる。
そこへ、頂川と綾島がやってくる。
「何かすげぇ音したけど、大丈夫か?」
頂川が驚き顔で尋ねる。
「うん、大丈夫だよ! 新技ができそうなんだ!」
影慈は思わず顔が明るくなる。
「すごいね! ずっと練習してたもんね!」
綾島が嬉しそうに声を上げる。
「ありがとう! そういえば、綾島さんと金髪君も新技の練習してたんだよね。どんな感じ?」
影慈は二人の顔を見る。
「ばっちりだぜ! 少し前に完成したとこだけどな。綾島さんと修行できたおかげだぜ!」
頂川は快活に笑う。
「ううん、私も頂川君と修行したから習得できたし……。お互い様だよ」
綾島は微笑む。
そんな話をしていると、不意にメフィから話しかけられる。
頂川、綾島も同時に守護天使から話しかけられているようだ。
三人はそれぞれ少し離れた所に移動し、守護天使と話をする。
(急にすまないな。バロンスの指示により、伝えることがある)
メフィが話し出す。
「いえいえ。何ですか?」
光葵は単純に何が伝えられるのかが気になった。
(生き残っている守護天使、悪魔サイドの人数。そして魔法を使う介入者の人数を開示するように指示された。天使サイドは残り五人、今君達がチームを組んでいる者達だな。介入者は一人、南城朱音のみだ。なお、名前等に関しては所属するサイドの者にしか開示されない)
メフィは淡々と説明する。
「天使サイドで生き残ってるのは俺達だけ。つまり半数は敗北しているということか……」
光葵は代理戦争での犠牲者のことを考え、複雑な心境になる。
――俺の知らない人も死んでしまっているのだろうか――。
(続いて悪魔サイドだが。残り四人だ。……現状優勢ではあるな)
メフィはゆっくりと言葉にする。
残り四人……。知っている敵だけで、美鈴、志之崎、至王、清宮だ……。




