九十三話 獣と狩人の饗宴②
「…………勝手に終わらせんな……。《毒盾》……」
貫崎の構えている毒の大盾は、特大魔石ボムを防いだ。引き換えに大盾は崩壊寸前だが……。
貫崎はそのまま大盾を脇に捨てる。草木が毒で溶かされる……。
そして言葉を続ける。
「お前ほど殺しがいがある奴はいねぇかもな……」
貫崎は渇望した獲物を前に歓喜の目を向ける。
「クハハハハ! 同感だなぁ! 全力で殺してやるよ……!」
伊欲は緑の魔石を三つ飲み込む。〝風属性〟が一気に強化されたようだ。《風纏》がより強化され周囲に風の刃を撒き散らす。
「フンッ! やることは似たようなもんだな……!」
貫崎はガス状に変化させた毒を鼻と口から吸い込み、毒を以て身体能力を一気に引き上げる。
ここまでくると、最早小細工などはなかった――。
両者、共に持ちうる魔法、力を相手にぶつける。
伊欲は風纏で上がったスピードと、風の斬撃、魔石放射、魔石の炸裂で攻撃を繰り広げる。
貫崎は毒爪、毒弾、毒霧爆散で応酬する。
互いに己の傷など気にせず戦いが続く……。
最終的に決定打になったのは、今まで使わずに温存していた貫崎の毒牙だった――。
伊欲の〝風纏の鎧〟を食い破り、直接貫崎の牙が伊欲の喉元に毒を打ち込む。
「ガッ……! ク……ハハハ。ヤラれたよ……。貫崎……お前の方が強い……」
伊欲は首元から紫に変色していき、そのまま倒れる。
やがて、守護センサーが知らせる。伊欲の死を……。
「……伊欲、お前も十分強かったぜ。全力出させてくれてありがとよ……」
貫崎は血を吐き捨て呟く。
そして、魔法奪取の選択を行う――選んだのは《風魔法》だ。
貫崎は腰を下ろす――。
数十秒後、守護センサーが反応する。
「今か……」
貫崎は苦しげに笑みを浮かべる。
目の前には、少女と侍がいた……。
「お前が戦っているのは分かっていた。その上で傷ついたお前を狙わせてもらう」
志之崎はせめてもの礼儀といった口調で話しかける。
「ごめんね、坊主の人……」
美鈴がどこか狂気じみた瞳で静かに言葉を発する。
「フンッ! 戦いにおいて傷ついた奴を狙うのは定石……。来いよ……!」
貫崎の後ろから動けるようになったケルベロスがゆっくりと主を守るために前に出る。
「大きいワンちゃんは私が殺すよ……。シノさんはこの人をお願い……」
美鈴が淡々と呟く。
「嬢ちゃん……。なめんなよ。『俺達』はまだ終わっちゃいないぜ……!」
次の瞬間、ケルベロスは《インビジブルゴーレム》の一撃で粉砕された……。
「な……。手負いとはいえ、ケルベロスが一撃だと……?」
貫崎から驚嘆の声が漏れ出る。
「……悪いが、お前の相手は俺だ」
志之崎が日本刀を構え突っ込んでくる。
「来い……! 《合成魔法》《毒魔法×風魔法――毒刃》!」
貫崎は毒を纏う風の刃で志之崎を全力攻撃する。
「《風魔刀――散らし風》……」
志之崎は攻撃をいなし散らす剣技を放つ。隙を作り出した後、刀の一閃にて貫崎の首を刎ねた……。
◇◇◇
――その後、志之崎は魔法奪取の選択を行う。
とんだ巡り合わせだな……まさか、最初に戦った奴の魔法が選択肢にあるなんてな……。志之崎はそう思いながら《風魔法》を選ぶ。
「シノさん、どの魔法を選んだの?」
美鈴が顔を覗き込んでくる。
「風魔法だ。今の時点でも風魔法は使えるが『基礎魔法』としてのサブ程度の出力だ。奴らに報復するにはもっと力が必要だと思ってな……。それより美鈴はよかったのか? 俺が坊主の男を倒してしまえば、美鈴は魔法を奪えないが……?」
志之崎は静かな口調で尋ねる。
「いいの。美鈴ね。最近力が溢れてくる感じがするんだ。それに、シノさんと二人で生き残ろうと思ったら、シノさんに魔法は多く持ってて欲しい……」
美鈴はどこか大人びた口調で話す。
「……分かった。じゃあ、俺が美鈴を護ろう。そして二人で生き残ろう……」
志之崎は本気でそう思う。
――これ以上失うことは、俺が俺自身を許せない!――。
「うん! ありがと、シノさん。一緒に生き残ろう!」
美鈴はあどけない笑顔を向ける。




