八十八話 罪悪感と復讐心
アジトにて。
頂川と綾島の二人は話していた。
「綾島さん。朱音ちゃんの言う通りだと思うぜ。今は休もう。何か飲むか?」
頂川が立ち上がる。
「……私、ルナ姉が必死に戦ってる時に恋愛の話なんかしてて……。ルナ姉には色んなことしてもらったし、助けてもらったのに……自分のこと許せない」
綾島は俯き、肩を震わせる。
「……綾島さん。自分を責める必要はないぞ……。ルナ姉はそんなことは望まない……」
頂川は悲しげに呟く。
「…………じゃあ、私のこの気持ちはどうすればいいの⁉ 何も感じるなってこと⁉」
綾島が珍しく大きな声を出す。
「綾島さん。あんたの気持ちも少しは分かるつもりだ。俺もルナ姉が好きだった……。何も感じないなんてこと俺だってできねぇよ! でも、ルナ姉が死んでしまったことの中に、自分を責める理由を見つけて自分を傷つけるのは違う。それだけは間違いないぜ!」
頂川はできる限り自分の想いが届くように伝える。
「……そうだけど。そうなんだけど。それでも……」
綾島は涙が止まらなくなる。
「……」
頂川は黙って椅子に腰かける。
「……頂川君。私、ルナ姉の仇を取りたい。この『復讐心』をもう抑えられないよ……」
綾島は頂川に願うように言葉を紡ぐ。
「…………すげぇ月並みな言葉だけど、ルナ姉の言葉なら分かると思う。『ルナ姉は復讐なんて望んでない』。でも、負けることも望んでないはずだ。体調を整えて、勝てる状態にしてから戦おう。俺もルナ姉の仇は取りたい……」
頂川は覚悟をそのまま言葉にする。
「…………そうだね。ありがと……」
頂川は綾島の瞳に宿る色が変わったように感じる。
強くなりルナ姉の仇を取る、揺るぎない感情を感じさせる瞳の色だ――。
◇◇◇
その頃、光葵、朱音、カイザー、比賀の四人は仲間探しと索敵をしていた。
カイザーが何かに気づく。
「先程から一瞬だけ敵の存在を感知できる。気のせいか?」
「もしかしたら、前に戦ったワープを使える仮面の男かも?」
朱音が疑問混じりに話す。
「誘っているのか……? どうも、廃業したゲームセンターの方に存在を感じる」
カイザーが少し険しい顔で光葵達の方を向く。
「カイザーの能力を知っている訳じゃないと思う。頂川は仲間の情報を売ったりしないだろう。ただ、敵は俺と朱音の『容姿』を知っている。目視で気づいて誘っている可能性はあるな……。……敵の方が人数が多かったら撤退、同じ数以下なら戦うってのはどうだろう?」
光葵は三人に考えを伝える。
「よく聞いたぞ日下部! 我はそれで良い。罠があれば我が魔眼で見破ろう」
カイザーは嬉しげに話す。
「私もそれでいいよ!」
朱音が明るく答える。
「私も構わない。あんた達の役にも立ちたいしな」
比賀は力強く答える――。
◇◇◇
二階建ての廃業したゲームセンターに着いた。
守護センサーが敵は三人だと知らせる。
「カイザー、敵の位置は分かるか?」
光葵が尋ねる。
「一階の入口から三十メートル程離れた所で固まっているようだ。前に聞いていた少女と、侍、仮面男だな……。罠は見当たらない」
カイザーの言葉の端々に緊張を感じる。
「魔法を撃ち込みながら入る必要もないか。正面から行こう」
光葵は少し低い声で伝える。
(影慈、行こう……)
光葵は影慈に念じる。
(任せて……。一緒に戦おう……!)
影慈が語気を強める。
――〝人格共存〟左右の瞳は琥珀色、陰のある黒へと変わる――。
「また会ったな、日下部……。この前の借り返させてもらうぞ」
志之崎の瞳に殺意が宿る。
「もうシノさん! チーム戦ですよ! あの人達は強い。全員で戦いますよ」
幸一郎が釘を刺す。
「美鈴達が協力したら最強だからね!」
美鈴の飾り気のない言葉が室内に響く。
「倒すぞ……!」
光葵の声掛けに仲間全員が応える。
幸一郎が即座に《空間転移》を使い、複数箇所にワープホールを出現させる。
そこから志之崎の《風魔刀》、幸一郎の《水製道具――カッティングトランプ》が高速で複数の斬撃を浴びせてくる。
「ぐっ……速い……!」
ワープホールはランダムに出現するため躱すのが非常に難しい……。
「私が防ぐ! 《乱生魔法――乱れ渦》」
比賀の魔法が空気の乱れを渦状に作り出し、風魔刀の斬撃、カッティングトランプの〝形状を乱し〟霧散させる。
「おおっ! すごいね!」
幸一郎が興味深げに声を上げる。
「遠距離からあのワープホールを使われると面倒だ。近接戦に持ち込む方がいいだろう。私が乱生魔法で敵の攻撃をいなす。みんなも続いてくれ!」
比賀が指示を出す。
仲間全員が同意し、各々の魔法も使いながら距離を詰めていき、五メートル圏内に突入する。
「侍と少女は近接戦が強い。ワープに気を付けつつ戦おう!」
光葵が仲間に注意を促す。




