八十七話 リーダー
比賀は他の仲間より比較的話しやすかったのか、光葵と話をすることが多かった。
「修行時の動きを見ていて思ったんだけど、日下部は空手か何かしているのか?」
比賀が光葵の目を見て尋ねる。
「よく分かりましたね。空手の黒帯持ってます。多分、比賀さんも武術経験者ですよね?」
光葵からも問いを投げる。
「柔道黒帯を持っている。私は元刑事なんだ。今はプラプラ仕事してるけどね」
比賀は少し明るく笑う。
「そうなんですね。……聞いていいことか分からないけど、なんで刑事辞めちゃったんですか?」
光葵は少し迷いつつも、素直に気になったことを尋ねる。
「ああ~まあ、上層部と揉めてね……。犯人を追い詰めるために命令違反とか、行き過ぎたことしてしまってな……。結局刑事続けれずに辞めた」
比賀はどこかさっぱりとした言い方をする。
「……そうですか。比賀さん元刑事だったら、銃使えますよね?」
光葵はそう言い、《生成魔法》でサプレッサー付きの自動拳銃と、弾倉を生成して手渡す。
「あんた、こんなこともできるんだな……。正直驚いたよ」
比賀はそう言い、一式を受け取る。
「この戦いは『戦争』です。使えるものは使って生き抜く。仲間は何がなんでも守る。そう決めたので……」
光葵は語気を強める。
「フッ。相当覚悟決めてるね。あんたみたいな頼りになるリーダーがいるのは、私にとっても、他のみんなにとっても頼もしいよ」
比賀は自動拳銃をいじりながら、言葉にする。
「え? リーダー……?」
光葵は思わず言葉を返す。
「ん……? 逆に、日下部がリーダーじゃないのか? みんなの話を聞いていても、中心になって行動を起こしているのは日下部という印象だったぞ」
比賀は真っ直ぐ光葵を見る。
「う~ん。俺がリーダーか……。あまり意識したこともなかったな。一応全員で物事は決めるようにしてますけどね……」
光葵は今までリーダーが誰かなど意識したことがなかったため、戸惑いの感情が心の底からじわじわと湧いてくる。
「それでも、あんたが全員の支柱になってるのはたしかだと思うぞ。あ……これは責任を感じてほしいという意味じゃないからな。私がこの中で最年長だ。私にも頼ってほしい。それが伝えたかったんだ」
比賀は一瞬焦りながら話す。
「全員の支柱……。なれてるといいな……。あと、比賀さん、気遣ってくださってありがとうございます。俺もみんなを頼りにしてるので、比賀さんがそこに加わってくれれば、すごく頼もしいです!」
光葵は比賀の言葉を受けて、全員の支柱になっていきたいと強く感じた。
今まではただ、みんなを守りたいと思っていた。
でもこれからは、守るだけではない、みんなの盾となり、心の拠り所となり、様々な面でみんなを支えていきたい……。
「日下部……。あんたは良いリーダーになれると思うよ。私も役に立てるように頑張る。これからよろしくな」
比賀が拳を光葵の方に向ける。
拳に応えるように、光葵は比賀と拳を合わせる――。
◇◇◇
六日目。
傷が全員回復したため、今後の行動を相談していた。
「すまねぇ。腕の完全回復までに時間かかっちまった。比賀さんも回復したみたいだし、今後の動き決めないとだよな」
頂川が両腕を上げて動けることをみんなに見せる。
「治ってよかったよ! 比賀さんも回復してよかった……!」
朱音が明るい声を出す。
「そうだな。仲間探しと索敵をしないとだな……」
光葵は少し声色が暗くなってしまう。
「日下部……。ルナ姉と話しただろう。決断は汝だけの責任にはさせない。みんなで相談して決めることなんだ。汝だけで責任を感じるな」
カイザーが光葵の目を見て言葉にする。
「……悪い。カイザー。みんなはどうすればいいと思う?」
全員の方に目を向ける。
光葵の意見に賛成だとの声が返ってくる。
――二人を除いて……。
「日下部……綾島さんはルナ姉の件でかなりショックを受けてる。俺から話し出しておいて悪ぃが、俺と綾島さんはアジトで待機でもいいか?」
頂川の声には優しさを感じる。
「大丈夫だ。むしろ、綾島さんの心まで考えれてなくてごめん。四人で動こう」
光葵は頂川の提案を素直に受け入れる。
「……ごめんね。みんな……。私……」
綾島はそれ以上声を出せない様子だ……。
「……綾島さんの気持ちは分かる。今は休んで……」
朱音がそっと声を掛ける。
その後、光葵達四人は外出して行動することになった。




