八十六話 溢れ出す感情
アジトに着き、状況を頂川達にも伝える……。
全員急な話に驚きつつも涙を流していた……。
光葵の後悔に染まった顔を見て、カイザーが叫ぶ。
「日下部! それ以上そんな顔をするな! 汝は今、ルナ姉の選択を……覚悟に背く行為をしている! ルナ姉は自分でするべきだと思ったことをしたはずだ! じゃないと……あんな最期の表情はできない……」
カイザーは叫んでいる途中で涙が溢れてきている……。
「……カイザー……。でも、俺が仲間探しと索敵なんて提案しなければ…………」
光葵は枯れていた涙が、再度零れだす。
「日下部……! あんたの気持ちもよくわかる。でも、これ以上の言葉を年下のカイザーに言わせんのか? それに、助けることができた命もあるんだ。二人の気持ちを考えろ……。……悪ぃ、酷なこと言ってるのはわかってる。でも、『今』は泣いてる場合じゃないはずだろ。あんたらの傷も早く治療しないといけねぇ。後で、いくらでも話は聞くからよ…………」
頂川が涙を拭いながら、力強い語気で言葉を飛ばす。
まるで光葵の心にある後悔、悲しみを少しでも減らしたいかのように……。
「……そうだよな……。俺が悪かった。ごめんなカイザー……。それにポニテのお姉さん……。急な状況に一番驚いてるよな……。俺はあなたに責任を感じてほしい訳じゃない。それはわかってもらえると助かります」
光葵は潤んだ瞳で、真っ直ぐ女性を見つめる。
瞳だけで、心の底から思っていることが少しでも伝わるように……。
「大丈夫だ。今までのやり取り見てるだけで伝わってきた……。……だから、これ以上言葉はいらないよ。それと、私は比賀直実って名前だ。よろしく頼む……」
比賀は真面目な表情で光葵を見つめ返す。
その瞳から、様々な感情が伝わってくる。ただし、現実を受け入れている強さも感じる。
強い女性なんだな……。光葵はただ純粋にそう思った。
「比賀さん……。あの、私は綾島優歌といいます。傷の手当をしましょう。回復魔法が使えますので……」
綾島が鼻水をすすりつつも、ベッドの方を指さす。
「それは助かる。すまないけど、お願いしたい……」
比賀は素直に綾島の提案を受けて、奥のベッドへ移動していく――。
◇◇◇
翌日。
「回復してくれてありがとう。それと……私を助けるためにルナさんが犠牲になってしまい本当に申し訳ない……」
比賀は全員に向かい深々と頭を下げる。
「頭を上げてください。昨日の俺達のやり取りを見てもらってると分かると思う。ルナ姉はそんな風に申し訳なさを感じてほしくないはずです」
光葵は真っ直ぐに言葉を届ける。
「日下部の言う通りだ。ルナ姉は自らやるべきだと思ったことをした。そういう人なんだ……」
カイザーは目を潤ませながら呟く。
「そうか……。とても素敵な人だったんだな……。私などのために……いや、すまない。ルナさんが助けてくれた命だ、大切にする。そして、あんた達の力になるよ」
比賀は力強く話す。
ルナ姉に最期に託された〝この子達をお願い〟という言葉を実行するかのように……。
「ありがとうございます……。そう言ってくださると、天国のルナ姉も喜んでくれると思います……。……そうだ、ちなみに、比賀さんの魔法はどんなものですか……?」
光葵は今後のために尋ねる。
「私の固有魔法は《乱生魔法》だ。基礎魔法は《土、回復、身体強化》が使える」
「乱生魔法? たしか助けに行った時、敵の攻撃を『逸らしてた』ような……。何か『乱れ』を作り出すような魔法ですか?」
光葵は予測も含めて質問する。
「ああ。本質は『乱す』魔法なんだ。具体的な使い方だと、乱すことで空気の流れを変えたり、敵に直接触れて肉体や心、魂に『乱れのダメージ』を入れられる。あとは、空間を歪めて高速移動なんかもできる」
比賀は身振り手振りも入れつつ説明する。
「色んな用途で使える魔法だな……。連携を取る練習も必要そうですね」
光葵は考えつつ、返答する。
「私としても、連携の練習ができれば助かる。私も仲間とタッグを組んでいた時もあったんだけど、昨日いた至王とかいう男に殺されてしまってね……。奴は強い」
比賀は過去を悼むように、宙を見上げる。
「至王と過去に戦ったことがあるのか?」
カイザーが口を開く。
「そうだ……。至王の《結界魔法》は私と組んでいた『律守』という女性から奪ったものだ。私と律守は至王と遭遇し戦いになった。数的有利もあったが、至王の《刻印魔法》に苦戦した。決め手になったのは、結界魔法を刻印魔法で上書きし、無効化されたことだった……。至王の結界への干渉が私達の勝機を奪った……」
比賀は悔しさを思い出したのか、歯を食いしばる。
「すまない、あまり考えずに質問してしまった」
カイザーが申し訳なさそうに話す。
「いや、いいんだ。お互いの情報共有は大切だしな。他にも共有したいことがある。結界魔法は結界内で仲間の能力を上げたり、逆に敵の能力を下げることができる魔法なんだ。使い勝手がよいから、敵に回るとかなり厄介だ」
比賀は真面目な口調で話す。
「俺達も至王と戦ったから、嫌というほど知ってる……。戦う時は注意が必要ですね」
光葵は拳に力をギュっと込める。
その後、お互いの知っている情報や、各々の魔法について共有した。
それから五日間は回復や連携の練習に時間を使った――。




