八十四話 失いたくないモノ
一方、日下部、ルナ姉、カイザーの三人は外出し、仲間探し兼索敵をしていた。
一時間程歩いた時だった。不意にカイザーが大声を上げる。
「右眼が疼く……。近いぞ! 日下部、ルナ姉」
カイザーは眼帯を外し、走り出す。
「カイザー。天使サイドか? それとも悪魔サイドか?」
光葵は走りながら息を切らし質問する。
「一対三で天使サイドの人が襲われているようだ……」
カイザーは焦りつつ答える。
光葵はその返答を聞いた時点で迷った。おそらく、襲われている天使サイドは傷を負っているだろう。全員生きて勝てるのか……?
「もう! 日下部ちゃん。また色々考えてるでしょ? 日下部ちゃんは一人で背負い過ぎよ。私達仲間がいることも忘れないで……。あなただけに重荷を背負わせない。私は助けたいと思う。カイザーちゃんは?」
ルナ姉はカイザーにも意見を求める。
「我も助けたいと思っているぞ!」
カイザーは迷いなく答える。
「コレはみんなで決めた決断。こうしてみんなで決めていけばいいのよ」
ルナ姉は優しく微笑む。
「ルナ姉……ありがとう。カイザーもありがとな!」
光葵は心がスッと軽くなるのを感じる。
「我は何もしてないぞ。ルナ姉の言う通りなんだ。もっと我等を頼れ」
カイザーの語気は少し強めだ。それだけ、光葵のことを心配してくれているのだろう。
「あと、戦闘が行われてるのはこの先の廃墟だ。二人とも行くぞ」
カイザーが気合を入れる。
(影慈頼む……!)
光葵は影慈に念じる。
(うん! 一緒に戦おうみっちゃん……!)
影慈が覚悟の滲む声で応える。
――〝人格共存〟左右の瞳は琥珀色、陰のある黒へと変わる――。
廃墟に着くと、そこには傷だらけで攻撃を〝逸らしている〟三十歳程の女性がいた。
守護センサーが告げる。この女性が天使サイドだと。
見た目は褐色肌で茶髪の短いポニーテール。顔立ちは整っており、ややつり目で目が大きい。勝気な性格である印象を受ける。
悪魔サイドは知っている者ばかりだ。至王、清宮、伊欲の三人が攻撃している。
「危ない!」
そう言い、ルナ姉は光葵達の誰よりも早く傷だらけの女性の所へ行こうとした。
「フハハ、よう温井。一人で突っ込んでくるとは無謀だな!」
至王は嘲笑うような声を出す。
「一人相手に申し訳ないけど、一気に決めましょう……《付与魔法×五感強化――攻撃、防御、敏捷、五感強化》」
清宮が詠唱を終えると、清宮、至王、伊欲の能力値が一気に上がるのを知覚する。
「こんな魔法まで使えるようになってたんだな! 清宮さんよ。 力が溢れてくるぜ!」
伊欲が溌剌とした声を発する。
そして、敵の一斉攻撃がルナ姉に向けて放たれる。
「《合成魔法》《刻印魔法×雷火砲――刻印雷火》……!」
至王の雷火砲を刻印魔法で強化しているようだ。
「《合成魔法》《付与魔法×水魔法――強化水龍》……」
清宮は巨大な水龍を創出し放ってくる。
「《魔石放射――七色》!」
伊欲は七属性の放射攻撃を行う。
「多勢で一人を攻撃なんて良い趣味ね」
ルナ姉は分身を盾にしながら傷だらけの女性の前に出る。
しかし、分身だけでは威力を殺しきれず、既に身体中が鮮血に染まっている……。
「温井……。貴様は昔から甘い……。その甘さが身を滅ぼすこともあるんだ。随分前にも同じような問答をした気がするな……」
至王はどこか遠い目をする。
「ルナ姉すぐ行く!」
光葵とカイザーは同時に叫び、ルナ姉に続こうとする。
しかし次の瞬間目の前に〝結界〟が出現し、光葵達の行く手を阻む。
「《合成魔法》《刻印魔法×結界魔法――刻印結界、防御の陣》……」
至王が詠唱してるのが見える。
「クソッ! 結界……! カイザー!」
光葵はすぐに叫ぶ。
「時間がない! 結界の弱点を探し武力行使で討ち破る!」
カイザーの魔眼が黒く輝く。
「……そこだ! 日下部! 我等の魔法で破壊する!」
カイザーの魔眼に黒い光が集まっていく。
カイザーの《魔眼砲》、光葵の《合成魔法》《灰燼の浸食》が同じ箇所に当たる。
結界は乾いた音を響かせ崩れる。
すぐに中に突入し、敵の総攻撃を無理やり突破する。
そして急いで、ルナ姉のもとへ行く。
「ルナ姉、俺達が守る! 防御しつつ俺が《回復魔法》も使う。必ず助ける……!」
光葵は〝これ以上仲間を失いたくない〟その一心で声を出す。
血を流すルナ姉を見ていると、自分の中の大切な一部分が欠損していくような感覚になる。やめろ……。コレ以上、奪わないでくれ……。




