七十八話 付きまとうトラウマ
同時刻、商店街を光葵、朱音、ルナ姉は歩いていた。
「朱音よかったのか? 学校しばらく休学にしたんだろ?」
光葵は朱音の方を見る。
「いいよ。みんなが危険な目に遭うのが分かってるなら戦いたいし」
朱音は真剣な表情だ。
「朱音ちゃんは優しいわね。参加者じゃないのに一緒に戦ってくれるんだもの」
ルナ姉が喜び半分、心配半分といった表情をする。
「そんな顔しないでくださいルナ姉。私が戦いたいって決めたことだし!」
朱音は明るく応える。
「そう……。ありがとうね。朱音ちゃん」
ルナ姉は少しばかり微笑む。
「俺からも、改めてありがとな朱音」
光葵は素直に感謝を口にする。
「もう、光葵まで……。戦いの怖さは分かってるつもりだし、覚悟はしてるよ」
朱音はただ言葉を言っているだけではない、覚悟を滲ませる。
その時光葵のスマホに二件の通知が入る。内容を見て思わず立ち尽くす。
「どうしたの? 光葵?」
朱音が異常を感じて問いかけたようだ。
「……頂川が悪魔サイドの奴に監禁されてるみたいだ……。俺に『一人』で来いとメッセージに書いてある」
添付された写真には、椅子に縛り付けられており、両腕は折れ、右足から血を流す頂川の姿があった。
まずい……動悸がする……! 思考がまとまらない。〝あの時〟と同じようなことには絶対になって欲しくない。若菜の死のトラウマが生々しく甦る。気が狂いそうだ…………。
(みっちゃん! 気持ちは痛い程分かる。ここは僕と主人格交代して! 作戦もあるから)
影慈が心強い語気で声をかけてくれる。
(……影慈……すまない)
光葵は念じることで、何とか影慈に答える。
――〝主人格交代〟瞳が琥珀色から陰のある黒へと変わる。
「光葵! 大丈夫? 顔真っ青だよ」
朱音が心配そうに顔を覗く。
「一度座りましょ。急な話だし混乱するのも無理ないわ」
ルナ姉が椅子を指さす。
「……ごめん。二人とも。僕は大丈夫……。それより、金髪君が危ない。三十分以内に来ないと殺すって書いてある。指定された場所は思ったより近い。多分二十分あれば着ける。それと、作戦があるんだけど聞いてくれる?」
〝影慈〟は少しふらつきつつ言葉を紡ぐ。
不意に口調が変わり話し始めたためか、二人は顔を見合わせ驚いているようだ。
「光葵、そんな喋り方だっけ? 『僕』とか言ってるし」
朱音が驚きのあまり質問する。
「え……? あ……。作戦考えてたら口調変わっちゃったかな? 策士モード的な……」
影慈は冷や汗をかきながら答える。
「う~ん、まあ世の中色んな人がいるし、日下部ちゃんが話しやすい話し方で大丈夫よ! それにあまり時間もないでしょう?」
ルナ姉が優しく微笑みつつも話を進めてくれる。
「ですね。作戦なんだけど、朱音ちゃんと『ルナ姉の分身』は守護センサーに反応しないことを活用する。僕がまず敵の言う通り一人で向かう。朱音ちゃんに隙を見て《炎帝魔法》で敵に攻撃してもらう。その隙を衝いて僕が金髪君と敵を分断する」
影慈は身振り手振りを入れ説明する。
「それで、ルナ姉の分身には金髪君の保護をお願いしたい。朱音ちゃんは僕と一緒に戦って欲しい。あくまで金髪君を助けるための作戦だから、勝ちにいく必要はない」
影慈は一気に作戦を伝えた。
「なるほどね。守護センサーに反応しないことを利用するのね」
ルナ姉が感心した声を出す。
「ルナ姉、分身の『操作可能距離』って最大どのくらいですか?」
「前に試してみた時は、五百メートルは最大離れられたわ」
「じゃあ、十分守護センサーの範囲外から動けるね。作戦については二人共どう思う?」
影慈が二人の目を見る。
「いいと思うよ! 隙を衝ければ頂川君を分断できる可能性はあると思うし」
朱音が答える。
「私も賛成よ。それにこれ以上議論してる程時間もないしね」
ルナ姉が少し焦って返答する。




