七十六話 それぞれの「あるべき世界の思想」
「あと気になってたんだけど、二人は何で代理戦争に参加したの? これから一緒に戦う仲間になる訳だし、聞いておきたくてさ」
幸一郎が真面目なトーンで質問する。
その直後、「あ、ちょっと待って、言いにくい話ではあると思うから僕から話していい? というか聞いてよかったかな?」
焦ったような口調に変わる。
「美鈴はいいよ。二人の戦う理由も聞いておきたいし」
美鈴は普段と打って変わり、真面目な声で返答する。
「俺も構わない。何を大事に考えているのか分かるだろうしな」
志之崎も同意する。
「よかった! じゃあ、まず僕からだけど『生きている間は少しでも楽しく幸せな世界にしたい』んだ。理由は……少し自分語りになっちゃうんだけどいい?」
――志之崎と美鈴は頷く。
「僕は婚約者に先立たれてるんだ。彼女は若かったんだけど、病気になっちゃってね……。病気と頑張って戦ったけど、死んでしまった。でも彼女は死ぬ間際まで笑顔を絶やさなかった……」
幸一郎は過去を偲ぶように宙を見る。そして言葉を紡ぐ。
「彼女の最期の言葉が『あなたのマジックでみんなが楽しく幸せな世界にして欲しい』だった……。彼女にしたら、代理戦争に参加するだなんて思ってもいないかもしれないけど、僕はできる限り多くの人を幸せにしたいんだ」
幸一郎の声のトーンだけで、本気でそう思っていることが伝わってくる。
「コウさん……。そんなことがあったんだね……」
美鈴はすすり泣く。
「幸一郎……。他人のために代理戦争に参加したのか……?」
志之崎は素直に質問する。
「他人のため……でもあるけど、自分のためでもあるよ。僕も楽しくて幸せな時間が好きだ。それに、彼女への恩返しでもあるからね。僕は彼女と出逢えて本当に幸せだったから」
幸一郎の言葉には一点の曇りもない。
「そうか……」
志之崎はもの悲しい顔をする。
「……実は美鈴も代理戦争に参加したのは、大事な人が死んじゃったからなんだ」
美鈴は涙を拭きながら話し始める。
「パパとママが二年前に死んじゃって……ううん、殺されちゃったんだ……。パパとママは仲良しさんでね、一年に一回の結婚記念日に旅行に行くの。美鈴はその時はアンナさんとお留守番するんだけどね。旅行に行った先でお金目的で襲われて二人とも殺されちゃった……」
ここまで話した時点で美鈴は涙が止まらなくなってしまう。
幸一郎は美鈴を優しく抱きしめる。
志之崎は美鈴の頭を何度もなでる。
しばらくし、美鈴は少しずつ落ち着く。
「……美鈴が代理戦争に参加したのは『大事な人とのお別れが一定期間ない世界』を作るためなんだ。最初はパパとママを生き返らせて欲しいって言ったんだけどマナの輪廻? の関係でできないって言われた。だったら、美鈴みたいな思いをする人を減らしたいなって思ったんだ」
美鈴は、どことなく大人びた顔で儚く微笑む。
「美鈴ちゃんは優しいね……。でも、大事な人とのお別れが一定期間ない世界って……?」
幸一郎は首をかしげながら尋ねている。
「悪魔さんに聞いてみたら、『因果律操作?』っていうので『親子は二十歳までは一緒にいられる』とか条件付きで叶えられるんだって。条件を増やし過ぎると、バロンス達の仕事が増えすぎるからダメって言われちゃったけどね」
美鈴自身もよく分かっていないような口振りだ。
「因果律操作も一定の条件をつければできるんだね……」
幸一郎は顎に手を添え考え込む。
「じゃあ、最後、シノさんの教えて!」
美鈴が少しだけ明るい声で尋ねる。
「……俺は……護りたい。この国を……世界を……」
志之崎は自分を諭すように呟く。
「じゃあ、シノさんもみんなのために代理戦争に参加したんだね!」
幸一郎が明るく話す。
「……俺は二人のように真っ直ぐな理由じゃないと思う。……侍は何かを守護するための存在だ。俺は『護るもの』が欲しかっただけなのかもしれないな……」
志之崎はどこか諦念を感じてしまう。
「それでも、すごいことだよ! 国や世界を護るために戦おうと思うなんて!」
美鈴が嬉しそうに声を上げる。
「そうだよ。まさに『侍』って感じでシノさんらしい!」
幸一郎も嬉しそうな様子だ。
「そうか……ありがとう。今日は二人のことが色々知れてよかったよ。作戦についてはもう一度考えた後、共有する。今日は解散で構わないか?」
二人が同意し、今日は解散となる――。




