七十五話 可憐な少女、侍、仮面の男
同日、美鈴、志之崎は新たな仲間と話していた。
「コウさん! ここが美鈴のお家だよ!」
美鈴は無邪気に自分の家の紹介をする。
「へ~! ここが美鈴ちゃんのお家か~。すごく大きいしオシャレだね!」
そう答える男は非常に変わった見た目だ。笑顔でウインクをしている仮面を着けており、少し長めのシルクハットをかぶっている。髪は黒と空色が交互に入ったメッシュ。服は青の燕尾服風のマジシャン衣装だ。名を安楽岡幸一郎という。
「美鈴……。アンナさんにはどう説明するつもりだ?」
志之崎が尋ねる。
「えっ? シノさんの時と同じ感じだよ!」
美鈴は純朴な瞳を志之崎に向ける。
「美鈴……俺が先にアンナさんに話してくる。あと幸一郎、仮面は外しておけ」
志之崎は美鈴が以前のように説明すると、不審に思われると考え、一人で向かうこととする。
「了解。シノさん!」
美鈴と幸一郎から明るい声で返答がある。
数分後、志之崎は美鈴達のもとへ戻る。
「幸一郎、やっぱり仮面は着けておけ」
志之崎は真面目な顔で話す。
「う~ん。自分で言うのも何だけど不審に思われないかな?」
幸一郎が疑問を含む声を出す。
「今回に関しては『ハッピーマジックショーの幸一郎』として紹介した方が良いようでな」
「なるほど……。分かった」
幸一郎は仮面を着ける。
少しするとメイドのアンナが玄関を開ける。
「こんにちは。シノさんが仰っていた通り、ハッピーマジックショーの幸一郎様ですね!」
アンナは輝いた顔で、明るく挨拶する。
「初めまして。幸一郎です」
幸一郎は、シルクハットを左手に持ち、右手を胸の前に添えお辞儀をする。
「すごい、本物ですね! 実は……ファンなんです!」
いつもは温厚なアンナだが、喜んでいるのが伝わってくる言い方だ。
「あ、申し訳ございません。美鈴さん。私ったら……」
「全然いいよ! アンナさんがコウさんのこと知ってるのはびっくりだけど!」
「お見苦しいところをお見せしてしまい、申し訳ございません。実はマジックを見るのが好きでして……」
アンナは恥ずかしそうに顔を赤くし頭をかく。
「僕にとっては嬉しい話です!」
そう言い、幸一郎の左手から炎が一瞬舞ったかと思うと、右手に赤い薔薇の花が出現していた。その薔薇の花をアンナに手渡す。
「えっ! えっ! いいんですか?」
顔を綻ばせながらアンナは薔薇の花を受け取る。
「もちろんです! 造花ですので、よければ飾ってください」
幸一郎も嬉しそうに返答する。
「はい! あ……美鈴さん申し訳ございません。私ばかり話してしまって……。先程シノさんからお話は伺っています。小学校の出し物でマジックをすることになって、シノさんのお知り合いの幸一郎様から、しばらくお家でレッスンを受けるのですよね?」
「ええっと……そうだよ! レッスン受けるんだ!」
美鈴は、ギチギチと音が聞こえてきそうなほど、ぎこちない返事だ。
「プロのマジシャンからレッスンを受けられる機会はそうないので、頑張ってくださいね!」
アンナはキラキラと輝く顔でガッツポーズを作っている。
「うん、頑張るね!」
美鈴が元気よく返事をする。
◇◇◇
その後、美鈴の自室へ志之崎達三人は向かう。
「もう、シノさん! 急に小学校の出し物するとか言わないでよ。美鈴焦っちゃったよ!」
美鈴が怒り半分、焦り半分といった口調で話す。
といっても、年相応の可愛らしさのある怒り方だ。
「すまない、美鈴。俺が話すと言ったものの、理由があれくらいしか思いつかなくてな……」
志之崎は困ったように、手を頭の後ろに回す。
「う~ん、仕方ないか。美鈴も理由全然考えてなかったし……ごめんね。でも、アンナさんすごく喜んでたからよかった!」
美鈴は純粋に嬉しそうな顔をする。
「いやぁ、ファンの人に会えると思ってなかったから僕も嬉しいよ! それにスムーズに美鈴ちゃんのお家にも入れたし。作戦会議はみんなが集まりやすい場所でするのが一番だからね」
幸一郎は仮面越しだが、喜んでいることが伝わる口調で言葉を出す。
「そうだな。スムーズに進んでよかった……。そういえば、幸一郎の固有魔法は《空間転移》だったな。敵を見つけるのに向いてそうだな」
志之崎は冷静な声で尋ねる。
「そうだね。『目に映る範囲』という条件と『ワープ距離が伸びるとマナ消費が増える』けど、色んな場所を移動して敵を見つけるのは得意だよ!」
幸一郎は明るく答える。
「ワープか~! いいなぁ。学校行くのとか楽そう!」
美鈴が無邪気な感想を口にする。
「あはは! 美鈴ちゃんは素直だね!」
幸一郎が声を上げ、楽しげに笑う。
「……幸一郎。ワープは『他人も一緒』にできたりするのか?」
志之崎が再度淡々と尋ねる。
「それもできるよ。マナ消費は増えちゃうけどね」
「そうか。ちなみに『敵』であっても一緒にワープはできるか……?」
志之崎の瞳に一筋の鋭利な光が奔る。
「……そんな使い方は考えたことなかったけど、それも可能だよ」
幸一郎の声色に緊張感が含まれる。
「なるほど……。リスクは上がるが作戦の候補を一つ思いついた。ただ、もう少し深く考えたい。また今度会う時に伝えてもいいか?」
志之崎の口調に真剣さが増す。
「僕はいいよ、シノさん」
幸一郎がすぐに答える。
志之崎のことを信頼してくれているのだろう。
「美鈴もそれで大丈夫」
美鈴も同様の返答だ。




