七十三話 今後の方針
五分程走り続ける。
――「日下部ちゃん、日下部ちゃん!」
光葵は、ルナ姉の声で我に返る。
「悪い、みんなが傷つく姿を見てると、気が動転してさ……」
思考が止まるほど無我夢中で走っていたようだ……。
「全く無茶な奴だ。いつ振り落とされるかと肝を冷やしたぞ」
カイザーは不満げに声を出す。
「……だけど日下部君のおかげで助かった。ありがと。でも、そろそろ降ろしてほしいかも……」
頬を赤く染め綾島が呟く。
光葵は「ごめん、ごめん」と言いながら、三人を降ろす。
「これからどうする? アジトが見つかるのは想定外だった」
カイザーが腕組みする。
「そのことだけど、もう一ヶ所アジトがあるの。念のためと思って準備はしてたのよ」
ルナ姉がゆっくりと声を出す。
「いや、ルナ姉のお世話にばかりなる訳には……」
光葵はすぐに言葉にする。
「そうは言ってもみんな学生でしょ? それに私意外とお金持ってるの。仲間なんだし気にしないで」
ルナ姉は優しい笑顔を見せる。
「……ありがとうございます。ルナ姉。俺達子どもじゃできないことが多いですね……」
光葵は伏し目がちに答える。
「うふふ、何言ってるのよ、日下部ちゃん。すごく頼もしかったわよ!」
ルナ姉は明るく笑う。
「えっ……。はは、そう言ってもらえると嬉しいです」
光葵はシンプルに心の底からそう思った。
「とりあえず、頂ちゃんと朱音ちゃんに今日のこと連絡して、このままアジトに向かいましょ。あれだけダメージを与えれば追いかけてこないとは思うけど、早めに休息は必要と思う」
「そうだな。皆傷だらけだ。我が魔眼で周囲は警戒する。このまま向かおう」
カイザーが魔眼で周囲を警戒しながら進む――。
◇◇◇
新アジトに到着する。
前アジトと同様に住宅地から離れた二階建ての4LDKだ。
まず全員の傷を回復させる。光葵、ルナ姉、綾島は《回復魔法》を使えるので、マナが残っている順で回復を行った。
ちなみに、光葵は人格共存状態では、回復魔法も使用することが可能だ。
その後、ルナ姉、綾島は傷が深かったためベッドで休んだ。
頂川と朱音も放課後に新アジトに来た。
二人はとても心配していたが、光葵から「今日はみんな休息が必要だから、今後のことは明日に話し合おう」と伝え、二人には帰宅してもらった――。
◇◇◇
翌日の放課後に頂川と朱音がアジトにやってくる。
「昨日にアジト襲われたんだよね! みんな大丈夫?」
朱音が心配そうに聞く。
「大丈夫よ。一日寝て、回復魔法を使ったから動けるわ。まあ、戦闘できる程回復はしてないけどね」
ルナ姉は優しい笑顔とは裏腹に、身体中にガーゼや包帯を巻いている。
「そっか……。私も学校休んで代理戦争に専念した方がいいかもね。みんなを守りたいし」
朱音は顎に手を添える。
「たしかにな! 日下部の話を聞いてから、俺も学校休むのは考えてたからよ」
頂川も声を出す。
「うーん、俺が言うのも何だが、学生は学業が本分だ。無理に休む必要はないと思う」
光葵は二人に自分の考えを伝える。
「でも、昨日の話を聞いたら少しでも助けになりたいよ……」
朱音は震えるような悲しい声を出す。
「……この決断はすまないが、お前達に任せる。俺からはこれ以上言えることもないし……」
光葵は代理戦争の危険性を十分に理解している。だが同時に、本人の意思が最も大切だとも思っている。だからこそ、光葵からは何も提案しなかった。
「分かった。今日帰ったらお父さんに聞いてみる」
朱音から返答がある。
「俺は家族が放任主義だから大丈夫と思うぜ。あ、でも問題があんだよな。今学校の新番長を巡って二つのグループが対立してるんだ。その仲裁をしたいから一週間くらい時間がほしい」
「ええ! 頂ちゃん、番長してたの⁉」
ルナ姉が率直に驚嘆の声を上げる。
「ああ、『元』だけどな。急に俺から番長が変わったから、まとまってなくてな……」
頂川は困ったように笑う。
「大変ね……。状況が落ち着くまではこっちのことは気にしないで」
ルナ姉が優しく伝える。
「ありがとな。ルナ姉」
頂川が明るい声で感謝する。




