七十二話 急襲
突入すると、そこには傷だらけのルナ姉と綾島がいた。
ルナ姉が前に出て庇っている。
「日下部ちゃん、カイザーちゃん、戻ってくれてありがとう」
ルナ姉はふらつきながら話す。
敵は二人だ。清宮、そして見知らぬ男がいた。
三十代前半、髪は肩まであるホワイトベージュ、目つきは鋭く顔立ちが良い。身長は高くスラっとしていて、品のある高級ブランドの黒いスーツを着用している。また、左手につけている金時計が目立つ。
「ルナ姉、綾島さん大丈夫か? 俺達も戦う。無理はしないでくれ!」
光葵は大声で叫ぶ。
――〝人格共存〟左右の瞳は琥珀色、陰のある黒へと変わる――。
敵との間に《闇魔法》と《氷魔法》を放つ。
そして、カイザーを抱えながら《風魔法――高速移動》でルナ姉達のもとへ行く。
「……日下部、気安く我に触れるな」
カイザーが不機嫌に呟く。
「カイザー、俺はこれ以上大切な人を失いたくない。後で文句は聞く。今は手を貸してくれ」
光葵はカイザーを鋭く一瞥する。
「……フッ、よかろう。汝の覚悟気に入った。敵を討ち破るぞ。結界、罠の看破は任せろ」
カイザーが語気を強める。
「君、闇魔法も使えたのね。一気に決めましょうか……。上道院さん」
清宮が穏やかな口調で声を出す。
「そうだな……。『温井』いや今は『ルナ』と呼ぶべきだったか。降伏すれば命だけは助けてやるぞ」
スーツの男は慈悲深さというより、傲慢さを感じさせる。
「至王ちゃん。ご忠告どうも。でも降伏する気はないわ」
ルナ姉が強い口調で返答する。
「そうか……。では、このまま四人を殺す。いくぞ……!」
至王の目つきが殺意を帯びる。
――今の状況はどちらかというと劣勢だ。ルナ姉、綾島の傷が深い。光葵とカイザーで隙を作る必要がある。どうする……? ふと奥の台所に〝ルナ姉の分身〟が一人いるのが目に入る――。
「時間がない、一方的に言うぞ。カイザー、綾島さんは後方支援。ルナ姉は『最後の一撃』を頼む」
光葵は全員に指示を出す。
「ウォオオオ!」
光葵は《高速移動》で至王と清宮に突っ込む。
「無策で突っ込んでくるか……。《合成魔法》《雷魔法×火炎魔法――雷火砲》!」
至王が雷と火炎の合成砲撃を放つ。
「上道院さん。油断なさらず。《水魔法――水の大砲》……」
清宮も同時に砲撃を放つ。
対して、光葵は「《合成魔法》《氷魔法×闇魔法――氷黒の盾》」で威力を殺す。
そして、氷の刃で薙ぎ払う。
「すごい魔法ね」
清宮は驚いた風な口振りで攻撃を躱す。
至王も同様に躱している。
「日下部! あと三歩先に『罠』がある! 他は周辺にない」
カイザーが叫ぶ。
「ありがとう。カイザー!」
光葵はそれが分かった上で最短距離にて敵に詰め寄る。
そのために、更に加速して跳び上がる。
〝罠〟は〝炎のような刻印〟が浮き出たかと思うと爆発した。
その一瞬前に「《合成魔法》《氷魔法×闇魔法――氷黒壁、仙人掌》」を発動する。
氷黒壁は光葵の身体を覆い隠す。そして、氷黒壁の表面にはサボテンのように大きな棘が複数創出される。それらは清宮と至王を貫いた。
「ガハッ……。フハハ、自爆覚悟か貴様……」
至王が呟き、雷火砲を放とうとしてくる。
「まだ、終わってない……」
光葵はそのまま《氷黒壁――仙人掌》を周囲に爆散させる。
至王は雷火砲から瞬時に魔法を切り替え「《刻印魔法――空盾》」と詠唱する。
空気中に〝刻印〟を打つことで盾を作り出したようだ。
「黒スーツ。このタイミングで防ぐのか……」
一方、清宮は反射神経である程度躱したようだ。
光葵は考える。清宮は〝五感が鋭い〟のか? どちらにせよ、このまま攻め切る……!
その時声が聞こえる。
「日下部、我等も攻撃に加わる! 《魔眼散弾》……!」
カイザーの魔眼から発する散弾型のマナが清宮目掛けて放たれる。
「《光魔法――穿ち光線》……!」
綾島も同様に清宮目掛けて攻撃をする。
綾島の指先から放たれる光線と魔眼散弾が、清宮を撃ち抜き、台所まで吹き飛ばす。
「ルナ姉『最後の一撃』をお願い!」
光葵は叫ぶ。そして至王に霧状の闇魔法を雪崩の如くぶつける。
「ハッ、こんな物量押しで俺を倒す気か?」
至王は雷火砲を放とうとしている。
しかし次の瞬間、台所にいた〝ルナ姉の分身〟が雷を纏った拳の一撃を至王のこめかみに打ち込む。
至王は頭から吹っ飛び椅子にぶつかり、椅子が大破する。
光葵は瞬時に思考する。敵を倒したいが、ルナ姉と綾島の怪我と体力が限界だ。今しか逃走のタイミングはない……!
「このまま離脱する! カイザー俺の腹にしがみつけ! 《身体強化》《風魔法――高速移動》……!」
光葵は《身体強化魔法》で脚力、腕力を大幅に引き上げる。そして、《風魔法――高速移動》を使い、一気に仲間三人のもとに向かう。
カイザーは一瞬「は?」と言うも光葵の鬼気迫る表情を見たからか、言われた通りに動いてくれる。
光葵は、ルナ姉と綾島を両手で担ぎ、身体にプロテクトを張りつつ一階の窓を突き破り離脱する。




