七十一話 魔眼
五日目の昼間。
平日のため、朱音と頂川は学校に行っており、アジトには四人しかいない。
「ルナ姉、綾島さん。今日は俺とカイザーで買い出し行ってくるよ」
光葵が買い出しの提案をする。
「ああ、行くとするか日下部」
カイザーも椅子から立ち上がる。
「悪いわね、二人とも。買い物メモは机の上にあるからそれを見て買ってきてちょうだい」
ルナ姉がメモを指さす。
カイザーと二人で近所のスーパーへ向かう。
といっても、アジトの場所が住宅地から離れており、スーパーまで行くのに徒歩二十分程かかる。
「カイザー。そういえばお前は学校へ行ってないのか? 俺は前に伝えた通り、代理戦争に集中するために家を出てるけど」
光葵は歩きながらカイザーの方を見る。
「ああ、中学二年ではあるが現在は休学中だ。ルナ姉と会ってからアジトが拠点となったのでな。我が魔眼の力をもって両親に暗示をかけた。我は親戚のいるアメリカへ留学中だとな」
「暗示か……。そんなこともできるんだな。魔眼は色んなことができて便利だな」
「フッ、まあな。だが弱点もある。常時魔眼が発動している関係でマナ効率が悪い。また、基礎魔法を一切使えない。これは適性の関係なのか魔眼の影響なのか分からんがな」
カイザーがやや低い声を出す。
「そうか……。戦いはできるのか? 戦うことが全てじゃないけど……」
光葵は少し言葉に詰まる。
「気を遣わずとも良いぞ、日下部。魔眼を使った戦い方は色々とある。また追々伝える」
カイザーの戦い方は説明が複雑なのか、話題を打ち切る形で答えられる。
「分かった。……少し気になってるんだが、カイザーはなんで代理戦争に参加したんだ?」
みんな理由があって代理戦争に参加しているはずだ。
勝ち抜いた先には、人間の一次元上の存在となるような戦いに……。
「理由か……。我は『変化が欲しかった』。何者でもない自分ではなく、誇れる何かが欲しかった。そのために、代理戦争に参加した。無論、変化に伴う危険は覚悟の上だぞ!」
カイザーがやや年相応の反応をする。
「そうだったのか……。いいと思うぞ。ただ、戦闘となると命の取り合いだ。そのあたりはどう思ってるんだ……?」
「命の取り合い。そこからは逃れられないと考えている。まだ、我は敵を殺したことはない。戦闘は何度かしたがな……。戦闘をしていて我は随分とルナ姉に助けられた。最初は足が震えまともに戦うこともできなかった。だが、我を守り続けてくれるルナ姉を見ていると、こちらも命を懸けて戦わなければ何も守れないと感じた。故に、今の我は戦う覚悟を持っているつもりだ」
カイザーの瞳に覚悟の色を感じ取る。
「そっか。カイザーには覚悟があるんだな……。それが聞けてよかったよ。すまんな、急に聞いちまって」
光葵は頭をかく。
「気にするな。我等は仲間だ。お互い思っていることは共有すべきだ。……そろそろ、スーパーに着くな」
――スーパーで手早く買い物を済ませ、アジトへ戻っていく。
帰り道、不意にカイザーが大声を出す。
「日下部! 急げ! アジトが襲われている!」
「なっ……! 急ぐぞ!」
光葵とカイザーはアジトに急行する。
アジトは外から見ても異常が分かった。ドアは破壊され、二階の窓硝子が割れている。
「ルナ姉! 綾島さん!」
急いで中に入ろうとする光葵をカイザーが止める。
「待て、日下部。家の周辺に『結界と罠』があるようだ」
そう言い眼帯を外す。五芒星の中に一点の黒い瞳孔が浮かぶ〝魔眼〟が露になる。
「我が魔眼で結界、罠の特定、構築式の把握、『マナ吸収』の力を応用し、無効化しよう」
カイザーは座り、両手をかざす。するとだんだんと、結界が見えるようになる。そして、少しずつ魔眼に吸収されていく……。
「次は罠だ!」
カイザーが声を出し、再度集中する。仕掛けてあった〝魔法刻印の付いた罠〟が複数表出する。黒い光状にゆらゆらと揺れた後、そのまま魔眼に吸収されていく。
「行くぞ! 日下部! 急がねば!」
カイザーの声掛けに「行こう!」と短く応える。




