六十七話 初修行
それから、一週間の修行の日々が始まった。
光葵の家族にはしばらく朱音の家で泊めてもらうことになったと伝えた。
また、頂川達にも少なくとも一週間はアジトに行けないこと、漆原を倒したことを伝えられていなかったことを謝っておいた。
今日は初修行の日だ。
修行は朱音が学校から帰ってきた夕方から行う。
〝南城神社〟の敷地に非常に広く目立たない場所があったため、そこを使わせてもらうこととなった。
「朱音、魔法は意識的に使えるのか? マナの知覚とかもできるか?」
光葵は朱音の目を見て尋ねる。
「魔法はイメージしたものを出せる感じかな。マナの知覚も何となく分かる。といっても、朱雀様の加護があるからだと思うけど」
朱音は少し頭を捻りながら返答する。
「なるほど。そこまでできるなら、実践から入って大丈夫そうだな」
「うん! まずは何をしようか」
朱音は明るい顔をする。
「とりあえず魔法を見せて欲しい。この前助けてもらった時にも見てたけどな」
光葵は《氷魔法》で分厚い氷壁を創出する。
「ここに《炎帝魔法》で何でもいいから攻撃して欲しい」
「オーケー」
朱音は右手にマナを集中する。
「《炎帝魔法――焔の矢》……!」
燃え盛る焔の矢が氷壁を一気に溶かし、そのまま奥の岩にぶつかる。焔の熱で岩をも溶かしつつあった。
「朱音……。お前……すごい魔法だな……」
正直驚いた。マナ出力が桁違いだ。
「はぁはぁ、そう? それはよかった」
朱音は笑顔こそ見せているが、辛そうな顔だ……。
「威力がある分、マナの消費と負担が大きいんだろう。マナ調整の練習が必要だな」
光葵は朱音の魔法特性の推測を話す。
「分かった。光葵、心配そうな顔してるね……。練習頑張るから心配しないで!」
朱音は腕を曲げてみせる。
「そうか……。俺も頑張るな。氷壁一瞬で溶けてたしな……。もっと強くなってやる……!」
光葵も同じように腕を曲げてみせる。
「うんうん! 一緒に頑張ろう!」
朱音の元気な声が響く。
◇◇◇
修行を始めて、四日が経った。朱音はマナ調整の精度が上がっていき、一撃放つだけで息が切れることはなくなった。
複雑な心境ではあるが、同時に頼もしくも感じていた。
休憩中に朱音から話がある。
「最近SNS見てると街中で爆発音が聞こえたとか、晴れてるのに雷が光ってたとか、おかしな投稿が目に入るんだよね。これも代理戦争の影響?」
朱音がスマホを見せてくる。
「あ~どっちも思い当たるな。雷に関しては仲間のうちの一人かもしれん」
光葵は少し笑う。
「そうなんだ! あと『Hоpes』っていう社会運動団体をよく見かける気がする。『世界平和や平等』のための運動をしてるみたい」
「前までならどこか他人事に感じてたかもしれないけど、星の代理戦争に参加してる今では『世界平和』とかの単語にむしろ当事者意識を感じるくらいだわ」
我ながら不思議な気分だ。
「そっか。バロンスっていう神様みたいなのを決める代理戦争だもんね」
朱音は、光葵が伝えた情報をもとに共感してくれる。
「うん。実際、まだ実感湧いてないくらいだけどな。ただ、魔法も使えるし、実際に起こってることなのはたしかだ……。生き抜くためにも負けられない……!」
光葵は強い決意を言葉にする。
「そうだね! 私も頑張るからさ、一緒に生き抜こう!」
朱音が明るい笑顔で応える。
「そうだな…………。さて、じゃあ修行を再開しようか」と立ち上がる。
内心、朱音を巻き込みたくない気持ちと、〝一緒には生きていけない〟ことを心に秘めながら……。




