六十五話 朱音の想い
翌朝。
身体を休めていると、朱音がやって来た。
「おはよう、光葵! 私は学校行くけど、今日もこの部屋使っていいからね。放課後家に帰ってきたら話したいこともあるし、今日は出発せずいてね」
朱音は朝から元気で明るい声だ。
「すまんな。傷の回復もあるし、家にいさせてもらえると助かる。いってらっしゃい」
光葵も明るい笑顔を向ける。
「ふふ。いってきます」
柔らかな笑顔で朱音は出掛ける――。
朱音が帰ってくるまでは主人格を影慈に交代し、回復に専念する。
夕方になり、学校から朱音が帰ってきたようだ。
しばらく光葵の所には来なかったが、二時間後くらいにやってきた。
「光葵、話があるんだけど今いい?」
朱音から声がかかる。
「大丈夫」
光葵は答える。
「お父さんとも話したんだけど、光葵の星の代理戦争の手伝いがしたいんだ」
朱音は真剣な瞳だ。
「朱音、それは……。自分の言ってる意味分かってるのか? 命懸けの戦いになるんだぞ……!」
光葵は今までの戦いが一気に脳裏をよぎり、反射的に大声を出す。
「分かってるよ! だから、昨日から何度も考えたよ。でも光葵が傷ついたり、もし死んじゃうと思うと……私ができることはしたい……!」
朱音は少し目を潤ませながら訴える。
「……俺は反対だ。既に仲間も……若菜も失ってるんだ……。朱音を巻き込みたくない……」
光葵は泣きそうな声で返答する。
「光葵の言ってることも分かるよ! でも、また戦うのを知っていて、何もしないなんてことはできない! それに私は朱雀様の力で戦うことができる」
朱音の瞳から本気であることが痛いほど伝わってくる。
「……それでも俺は朱音を巻き込みたくない」
光葵は真っ直ぐ朱音の目を見つめる。
「光葵……その選択は私にとって一番残酷なものなんだよ。大事な友達が必死に戦ってるのにそれを見て見ぬ振りしろってことだから……」
朱音は目に涙を浮かべる。
「それは……」
朱音の性格は知ってる。仲間思いで優しい。そして、自分の〝芯〟がある。
「じゃあ、一週間! 一週間光葵と修行して、その上で足手まといだったら潔く諦める。これならどう? 何もせず諦めるなんてできない!」
朱音は声量を上げる。
「…………分かった。朱音のお父さんは何て言ってるんだ?」
「私が決めたことで、友達を助けられる力があるなら力になってあげなさい、って言ってる」
「そうか。確認したいことがある。少し一人でいていいか?」
「いいよ、待ってる」
朱音が静かに答える。
「メフィさん。聞こえますか? 話せるなら話したいです」
十秒ほど応答がなかったが、不意にメフィから声がかかる。
(すまないな、遅くなった……。どうしたんだ?)
「〝代理戦争の参加者以外の介入〟はルール上アリなんですか? 朱音のことなんですけど……」
光葵は少し低い声で尋ねる。
(ルール上は参加者が〝無関係の者への危害を禁じる〟規定はない。裏を返せば逆の規定もないんだ。基本的に魔法を使った戦いになるため、一般人が代理戦争に介入することを想定していないのもあるが、ルール上問題はない)
淡々と質問に回答している印象だ。
「分かりました。ありがとうございます……」
ルール上は朱音の介入も可能なのか……。
(ただし、固有魔法の奪取はできず、逆に奪われることもない。降伏するという概念もない。つまり、代理戦争の記憶は残り続けるし、場合によっては殺害されるリスクが上がるだろう)
「…………そうですか……。分かりました……」
光葵は朱音の参加するリスクの高さ……現実に恐怖した……。




