六十四話 朱雀の巫女
「朱音も参加者なのかと思ってたんだが、それは違うのか?」
「星の代理戦争なんて初めて聞いたくらいだよ。前からだけど、そもそも魔法を使ってたこと自体にびっくりしてるよ!」
朱音は元々大きい目を、更に大きく見開く。
「まあ、そうだよな……。朱音の魔法は今日急に使えるようになったのか?」
「そうなんだ! 光葵を守りたいって強く願ったら『朱雀様』が力を貸すって言ってくれてさ」
「その『朱雀様』っていうのは中国神話の四神の朱雀?」
「そうだよ! うちは朱雀様を祀ってる神社なんだ。毎年、巫女の儀式をするんだけど、ちょうど中学三年生の時に朱雀様からの声が聞こえて、『其方に加護を授けよう』って言われたんだ。お父さんは朱雀様に選ばれたのは名誉なことだって言ってた」
朱音は嬉しげに話す。
「すごい話だな……。四神に選ばれるなんてことあるんだな」
単純に驚いた。
「だよね。今まででも数えれる人数くらいしか選ばれた人はいないんだってさ。なんで私なのかはさっぱりなんだけどね。あと、朱雀様の加護が宿った時に髪の毛も赤くなったんだよ!」
「すごいな! 心が綺麗だから……とか? てか、その髪一応、地毛だったんだな」
「あら光葵、口が上手になったね。髪のことは前にも言ったじゃん!」
朱音はケラケラと笑う。
「なんか色々話が繋がったわ。とにかく、今日はありがとな」
光葵は笑顔を向ける。
「いいよ! 逆に私のこと守ってくれてありがとね。あと……光葵を探してたのは若菜ちゃんのことがあったからなの……。光葵が命懸けで戦い続けてるのも分かった。その上で若菜ちゃんが亡くなったのは……すごくショックなことだと思う……」
朱音の目は潤んでいる……。
「……若菜は代理戦争に巻き込まれて死んだんだ。俺の戦争に巻き込まれて死んだ……」
光葵は感情が死んでいくのを感じる。
「光葵…………。じゃあ、あの事件も?」
悲しげな声だ。
「参加者の一人に快楽殺人鬼がいて、俺は奴に因縁があった。それが結果的に、若菜を死なせてしまうことに繋がった……」
だんだん涙が溢れてきているのが分かる。
「光葵……それは、すごく悲しいことだよ……。自分を責めないで……」
「…………そうだな……」
気づけば、朱音が光葵を抱きしめていた。
「朱音……何を……?」
光葵は現状がよく分からず、思わず尋ねる。
「光葵の気持ちを考えると悲しくて……。辛いよね。今は泣いていいんだよ……」
「朱音…………」
温かく柔らかな朱音の身体と心に身をゆだね、光葵は泣き続けた――。
◇◇◇
夕飯は朱音の家で食べることになった。
敷地を歩いてると改めて神社にいるんだなと思う。
食卓にて。
「君が日下部君だね。小学生以来かな? といっても運動会で少し話した程度だけどね」
朱音の父が優しく話しかけてくる。
「お世話になります。運動会で話したような……すみません。記憶が曖昧で……」
光葵は頭をかく。
「いいよ、いいよ。だいぶ前のことだからね。運動会では朱音がお世話になったみたいで……」
「もう、お父さん。その話はしないでよ! 今は運動得意なくらいだし!」
朱音が大きな声を出す。
「ははは。本人の前でする話じゃないか……。朱音が感謝していたことを伝えたくてね」
朱音の父は嬉しげに笑みを作る。
「いえ、俺は大したことしてないですよ。朱音の努力ですから」
光葵は微笑む。
「いい子だね君。ご飯いっぱい食べなさい。おかわりもあるよ」
朱音の父は嬉しそうに話す。
その後も話をしながらご飯を食べた。
今日は泊まっていいと言われ、泊まらせてもらった。




