五十六話 日常と非情な現実
夜になりアジトに戻る。
今日は二班とも収穫はなかった。
「しばらく漆原探しに時間を使うことになると思う。改めてだけどよろしくお願いします」
光葵が丁寧に言葉を発する。
「そんな輩放っておけぬからな。早い所見つけて討取るぞ」
カイザーが力強く応える。
その時、机に置いてあった光葵のスマホの画面が通知で光る。
待ち受けを見て「誰だこのツインテールの女の子。日下部の彼女か?」と頂川が聞いてくる。
「ああ。この子は俺の妹の若菜だ。可愛いだろ?」
つい顔が緩んでしまう。
「お、おう。可愛い子だな」
頂川からどこか焦ったような返答がある。
「他にも可愛い写真がたくさんあるぞ。これ見てくれよ。寝顔がめちゃくちゃ可愛いんだ」
なぜか時が止まったかのように、場が静まり返る。
「日下部……お前はもっとなんつうか硬派な奴だと思ってたぜ」
頂川が渋い声を出す。
「日下部ちゃんってシスコンだったのね……」
唖然とした様子でルナ姉が呟く。
「何言ってんだよルナ姉、俺はシスコンじゃないぞ……」
◇◇◇
翌日。
光葵が昨日同様、アジトに向かっている途中でスマホに三件の通知が入る。
なんだ? 若菜がメッセージを送ってきたのか? などと思いスマホを開く。
刹那、身体の芯から戦慄した。
メッセージは空手道場の友人からのもので、以下の内容が書いてあった。
「親愛なる日下部君。やっと君と都合良く逢える場所が分かったよ。君を探すのに僕は随分と苦労したよ。身体もボロボロだったしね。君と逢えると思うと胸が高鳴るよ」
「今から三十分経過するごとに一人ずつ道場生を殺していくね。状況は送ってる写真を見てもらえば分かると思う。じゃあ、逢えるの楽しみにしてるよ!」
添付された写真には、血溜まりの上に倒れる多数の道場生、そして師範の姿があった……。
内容を読み終えた瞬間に光葵は《身体強化》を使い道場に向かって駆け出していた。
――嘘だろ……。俺のせいでみんなが……! 頼む間に合ってくれ――。
「おお~。ぴったり三十分で到着だね! 逢いたかったよ、日下部君。ちょうど二十日ぶりだね」
柔らかな笑顔を貼り付けたまま漆原は話しかけてくる。
「お前……何で……」
目の前に広がる惨状に言葉が出てこない……。
「ああ、何で君の通う道場が分かったのかかい? 背丈や雰囲気から高校生と当たりをつけて、君と逢った町周辺の高校五つをしらみ潰しに張り込んだのさ。五十メートル圏内に入らないように遠くから望遠鏡でね」
漆原は手で望遠鏡のように丸を作る。
「それで登校中の君を見つけたんだ。君が放課後帰ったのを確認した上で、帰り際の生徒何人かに声を掛けた。日下部君の名前と見た目の特徴を伝えて『お世話になった人で、どうしてもすぐに渡さないといけないものがある』とか伝えて、生徒から逢えそうな場所を聞き出したんだ」
「……違う。何で無関係の道場のみんなを巻き込んだ……?」
自分でも声が震えているのが分かる。
漆原はキョトンとした顔をする。
「ははは! 君は本当に面白いことを聞くね。そんなの決まってるじゃないか。真正面から戦ったら勝ち目が薄いのと、君の色んな表情が見たいからさ!」
「……お前は……本当に狂ってるな……ぶっ飛ばしてやる……!」
血液が……身体全体が沸騰しそうだ……。




