五十三話 自己紹介
しばらく歩き、アジトに到着した。
二階建てで4LDKだと聞く。
「さて、アジトに着いたし、改めて自己紹介しましょうか」
ルナ姉の明るい声が部屋に響く。
「私はルナっていう名前よ。といっても源氏名なんだけどね。元の名前は捨てた訳じゃないけど、ルナって呼んで欲しい。この子達はルナ姉って呼んでくれてる。よろしくね!」
「次は我が名乗ろう。名は中村皇帝。王となることを宿命づけられし者だ」
カイザー……キラキラネームという奴か……? 影慈も驚いているのが知覚できる……。
一方、頂川は「かっけぇ名前だな。俺は頂川剛一だ。よろしくな」と握手をしている。
「俺は日下部光葵です。頂川とは結構長くチームを組んでます。よろしくお願いします」
光葵は頭を軽く下げる。
「じゃあ、最後は綾島ちゃんね」
ルナ姉が自己紹介を促す。
「……綾島優歌です。よろしく……お願いします」
今にも消え入りそうな声だ。
黒髪ロングで前髪が長く顔が隠れている。幽霊のような印象だ。年は高校二年生程と思われる。
「でもよく参加者に会うな。今回は魔眼の力もあると思うけど、不思議だ……」
頂川が呟く。
「守護天使からの話だけど『参加者同士は引き合わされる因果律が付与』されてるそうよ」
ルナ姉が笑みを浮かべつつ答える。
「そうか。参加者が守護センサーと、偶然でしか出会えないと代理戦争に支障が出るか……」
光葵は何とも複雑な心境になる……。
「なんか難しい話だな。そういやこのアジトって誰かの家なのか?」
頂川が思ったことをそのまま質問したようだ。
「私の知り合いの隠れ家なの。その子がほとんど使ってないから、使っていいって言ってくれてね。こうしてアジトにさせてもらったのよ!」
ルナ姉が大きく手を広げてみせる。
「すごいな。ルナ姉何者?」
頂川が驚きつつ尋ねる。
「うふふ、秘密よ。色んな仕事してたからその関係って思ってて」
何ともミステリアスな言い方だ。
「オーケー。まあ、これからよろしくな! ルナ姉、カイザー。あと、綾島さん」
頂川が全員に挨拶する。
◇◇◇
翌日もアジトに五人は集まった。
「お邪魔します」
光葵は玄関に入る。いい匂いがする。クリームシチューか……?
台所に向かうと予想外の光景が目に映る。
ルナ姉が〝三人で〟調理をしているのだ……。
「おかえり! みんなで夕飯食べようと思って、ちょうどクリームシチュー作ってたのよ」
ルナ姉のうちの一人が話す。
「ルナ姉……えっ? えっ? 三つ子⁉」
思わず、思考より先に口が動く。
「やだもう、三つ子じゃないわよ! そういえば説明しそびれてたわね。私の固有魔法は《分身魔法》なのよ。だからこうして、手分けして調理してるわけよ」
ルナ姉は微笑みを浮かべる。
「ああ~なるほど。……なるほどですけど、急に三人に増えられるとびっくりしますよ!」
光葵は思わず、ツッコミを入れる。
「うふふ。でも日下部ちゃんの驚いた顔見れてよかった。難しい顔してること多かったから」
「あ、そうでしたか? すみません。色々考え込んじゃってて……」
光葵は伏し目がちに答える。
「そうなのね。代理戦争しろって急に言われてもすぐ順応するのは難しいわよね……。そうだ、今後のことも話し合いたいし、今日はここでご飯食べない?」
ルナ姉に明るく尋ねられる。
「そうですね。話し合いの場も必要ですし。それにすごく美味しそうな匂いがしてるので、食べたいです」
光葵は少し口角を上げる。
「あら。そう言ってもらえると嬉しいわ。腕によりをかけるから、もうしばらく待ってて」




