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【Another】星の代理戦争~Twin Survive~  作者: 一 弓爾
一章 星の代理戦争 前編

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五十話 亡くしたモノ

 光葵と頂川は身体中に傷を負いながらも伊欲と戦っていた。


「頂川、まだイケるか?」


「ああ、イケるぜ! 日下部は環さんの方を助けに行け。こいつは俺が何とかする!」


 光葵はこの言葉を聞き、実際は一瞬だが〝永久に近い悩み〟を感じた。環を助けに行けば助かる可能性は上がる。だがほぼ確実に頂川は死ぬことになるだろう。


 俺は二人とも助けたい……!


「無茶承知で言う。二人ですぐに倒して環さんを助ける。それしか全員が助かる道はない!」


「クソ……やるぜ……!」


「クハハ。仲間思いだなぁ……! 安心しろ。全員あの世で会わせてやるよ……」


 伊欲は冷酷に言葉を紡ぐ。


 光葵も頂川も持ちうる全ての力を出す。しかし、手傷を負い、環にも意識が向いてしまっている光葵達は〝あまりにも弱かった〟――無慈悲に守護センサーが告げる。環の敗北を……。


「頂川……分かるよな?」


 思わず声が震えているのが自分で分かる。


「俺らは勝てなかった……守れなかった……」


 頂川は音が聞こえる程、歯を食いしばる。


(このままじゃ全滅だ! 主人格交代して! 僕の魔法で隙を作る。その間に逃げるんだ!)


(みっちゃん!!)


 影慈が再度呼びかける。


(すまん。後のこと頼む)


 ――〝主人格交代〟瞳が琥珀色から陰のある黒へと変わる。


 ◇◇◇


「《合成魔法》《氷魔法×風魔法――氷刃ひょうじん》……!」


 影慈の詠唱後、伊欲に風の速力の乗った無数の氷の刃が放たれ、動きを止める。


「おっ。なんだ? こんな技も隠してたのか……」


 伊欲は思わぬ攻撃だったのか、氷刃をモロに食らう。


 影慈は考える。マナも残り少ない、外にいる清宮を退けて逃走するしかない……!


「金髪君、君頼りの案でごめんね。残りの僕のマナで金髪君の足だけを高速で回復させる。残ったマナは全て《風魔法》で君の速力に変える。だから、僕を背負って逃げ切って欲しい」


 影慈は頂川に逃走作戦を切羽詰まった口調で伝える。


「……了解だ」


 頂川は静かに《雷纏》を足に集中させているようだ。


 影慈は限界を超える程のマナ出力で頂川の足を回復させる。

 意識が飛びそうだ……。


「環さんの付与魔法の効果がまだ残ってるみてぇだ。特に敏捷、マナ知覚アップが今の状況では役に立つ。敵の攻撃には意識を割かず『速力』を上げることにだけ集中できるか?」


 頂川が影慈の目を見て真剣な表情で問いかける。


「了解。信じるよ!」


 そこに、清宮が止めの一撃を狙いにやって来る……。


「行くぞ、日下部!」


 一気にギアをフルに上げた迅雷の如き逃走が始まる――。



 頂川、影慈に向けて、水の弾丸、水の大砲が複数回撃ち込まれるも全て躱す。


「こちらを見ずに完璧に躱している。しかもスピードは落ちていない……」


 清宮は思わず声を漏らす。


 このまま行けば、逃げ切れる……環さんの付与魔法のおかげだ……。ありがとう……。

 敵影は見えなくなっていき、最終的に人混みのある商店街まで辿り着き、逃げ切れたと判断する。


「金髪君、ありがとう……。今回は本当に助かった」


 影慈は疲弊もあり、声を何とか絞り出す。


「いや、日下部のおかげでもあるぜ。ありがとな……」


 十秒程無言の時間が続く。


「環さん、殺されてたね……」


 影慈は呆然としつつぽつりと呟く。


「生きてればと思ってたが、灰みたいになっちまってたな」


 頂川は切ない表情で宙を見る。


「僕達はまだまだ弱いね。守りたいものがあっても見合うだけの強さがないと守れない……」


 影慈は泣きそうになるのを何とかこらえる……。


「……そうだ……守れなかった」


 頂川は俯いて声を震わせつつ呟く。


「このまま病院へ行こうか。二人ともボロボロだ。マナもほとんど残ってないし……」


「そうだな……。喧嘩してた時によく診てもらってた病院があるから、そこ行こうぜ……」


 頂川の先導でその病院へと向かうことになる。道中は無言の時間が続いた……。


 医師の診断で、入院して様子を見るように言われ、入院することが決まった。


 主人格は光葵に交代した。


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