四十九話 信条 あるべき世界の思想
その頃、環は清宮のタックルで地面に頭を打ち、頭から血を流していた……。
「はぁはぁ……。あなた見かけによらず、近接戦闘タイプなの?」
環が息切れしつつ尋ねる。
「近接戦闘タイプという訳でもないけど、固有魔法の関係で『感覚が鋭い』の。だから魔法のタイミングに合わせて私が巻き込まれない時に飛び込めたのよ」
清宮は穏やかに答える。
「……あなた強そうね。でも負けない……! 《土魔法――ゴーレム練成》……!」
一五〇センチメートル程のゴーレムが地面から現れる。
「《付与魔法――攻撃、防御、敏捷アップ》!」
ゴーレムと環に能力が付与される。
「行くよ! ゴーレムちゃん!」
ゴーレムによる突進、環の土の弾丸が清宮に襲い掛かる。
清宮はゴーレムの攻撃を躱しつつ、土の弾丸に《水の弾丸》を当てて相殺する。
「マナ出力がね……あなたと私じゃ差が大きいのよ」
清宮がそう呟き、水の大砲をゴーレムに放つ。無惨にもゴーレムは弾け飛ぶ。
その後すぐ「《水魔法――水の枷》」で環を拘束する。
「くっ……。動けない……!」
環の身体に水の枷が巻き付き、そのまま倒れ込む……。
「あなたに聞きたいことがあるの。なぜ代理戦争に参加したの?」
清宮は神聖な声色で聞く。
「……人類がこのまま繁栄できるようにしたいから」
環は少し迷った後、答えた。なぜか清宮の声を聞いていると、答えたくなったのだ……。
「そう……。このまま人類の数が増えれば、いずれ地球のキャパを超えてしまうかもしれない。それでも人類が繁栄することを望むの?」
「だから今、持続可能な世界にするために色んな努力が行われてるんじゃないの? それに勝ち抜けば、世界を変えうる力も手に入るんでしょ?」
環は拘束されているが語気を強める。
「そうね……あなたの言う通りだわ。あと、あなたには『信条』『あるべき世界の思想』があって参加していることも分かった。それが聞けてよかったわ」
清宮は柔らかに微笑む。
「あなた不思議なこと聞くのね……。あなたはどうなの?」
「私は『全人類の救済』のために代理戦争に参加した。このまま何もせず人が増え続けると、人類に未来はない。だから、私が全人類の教養、視点、思想の段階を引き上げたい」
「そんなことできるの……? いや、そのために勝ち抜いて、超常的な力を得たいのか……」
「そういうことよ。私の思想も聞いてくれてありがとう。また会えるなら会いましょう……」
そう言い、清宮は穏やかな顔で環の心臓に水の弾丸を撃ち込んだ。




