四十五話 毒狂化
「むちゃくちゃな魔法だなぁ! おもしれぇ! 更にお前の魔法欲しくなってきたぜ……! 《風魔法――風纏》……!」
伊欲は身体中に吹き荒れる風を纏い、毒の直撃を避けつつ、速度を上げて徒手空拳で戦う。
風纏も毒で溶かせるが、伊欲の身体にまで触れることはできなかった。
「フンッ! 近接戦もなかなかだな。だがこの連撃は防げねぇだろ……! 悪鬼いくぞ!」
貫崎は訓練していた、悪鬼との高速連撃を叩き込む。
貫崎の毒を纏った拳での打撃――《毒打》での攻撃。悪鬼は金棒を貫崎の動きに合わせて振り回す。
「流石に普通に戦ってりゃ、二対一だと厳しいな……」
伊欲の汗が一筋流れる。
「ダメ押しだ!《毒霧爆散》……!」
貫崎は溶解力を上げた毒霧を伊欲の前で爆散させる。
――次の瞬間、毒霧爆散は〝爆炎と共に〟跳ね返される。
「《魔石放射――赤》……」
伊欲が静かに呟く。
「ゴハッ! ガハッ! ……お前、何しやがった……!」
貫崎は自らの毒霧も吸い込んでしまい、喉の焼けるような痛みを感じながら、伊欲を睨み付ける。
「さあな? 言ったらこっちが不利だろ? 言わねぇよ」
伊欲は飄々とした口調だ。
「ちっ……悪鬼諸共に吹き飛ばす威力か……。厄介だな……」
そこで、貫崎は気づく。伊欲の右手にキラキラと光る魔石の破片があることに。
「派手頭……お前の石ころは炸裂させるだけじゃなく、手に持つことで『前方』に指向性を持って放出できるのか……?」
貫崎は伊欲の攻撃の分析を話す。
「……へ~、案外冷静なんだな。もっと本能で戦うタイプと思ってたぜ。それか、頭から血が抜けて上手く思考できるようになったか……?」
伊欲は小馬鹿にした口調で答える。
正解とは言っていないが、否定はしないようだ。
「……このまま戦っていても、ジリ貧になりそうだな……。一気に決める……」
貫崎は右手に紫の毒を創出する。そしてそこに〝別種の毒〟を混ぜてやや黄緑の色に変色させる。だんだんと毒は、ガス状になっていく……。
「お前……! この感じヤバい……!」
伊欲は何か危機を感じ取ったのだろう。魔石を複数高速投擲してくる。
「一秒遅ぇ……!」
貫崎は毒ガスを鼻と口から一気に吸い込む。
身体中に血管が浮き出る。まるで血が躍ってるみてぇだ。
――今の貫崎は毒で自分を極限状態に追い込み、リミッターを外すことで規格外に力を引き上げていた。肉体への尋常ではない負荷と引き換えに――。
貫崎は先程とは比較にならない速度のスプリントで〝複数の魔石〟を突っ切る。そのまま爆風を背に受けながら、凄まじい速度で伊欲の前に飛び出る。
「おら、躱してみろよ……!」
毒を纏った強烈な殴打を鳩尾に入れる。
伊欲の口から鮮血が噴き出る。
そこへ、後ろから悪鬼が金棒を振り抜く――。
「グハッ……!」
伊欲は貫崎と悪鬼の連撃で宙を舞い、地面に堕ちる。
「オラッ。もう終わりか? このままトドメ刺してやるよ……」
貫崎は鼻と口から、血をドクドクと流しながら、強い口調で言葉を投げる。
「…………クハハハハ……。そういうお前も、もう限界だろ? 身体中の血管がはち切れそうだぜ?」
伊欲はゆっくりと立ち上がり、血反吐を吐きつつ言葉を吐く。
「フンッ! お前こそ毒で死にそうじゃねぇか……」
貫崎は赤く染まった瞳で獲物を捕捉する。
「クハ……。命懸けでいきたいところだが、悪鬼と二対一でこの状況……流石に勝算低いぜ。離脱する」
伊欲は魔石を大量に両手に持つ。
「待てよ……! 逃げる気か?」
貫崎は獣の如く低いスプリント体勢を取る。
「続きは今度だ! 貫崎!」
伊欲は魔石を複数同時に炸裂させ、煙幕のように使用する。
「クソがッ! 待ちやがれ!」
貫崎は、伊欲の方に突っ込むも足元で何かが引っ掛かる。何だ?
薄桜色のプロテクトフィールド〟が二つ展開されている。
「あの派手頭、石ころでプロテクトも展開できるのか……。しかも『時間差で罠』として使うか。だがまだ……」と言うと同時に、口から血が大量に吐き出る……。
次の瞬間、更に魔石が複数飛んできているのが目に映る。
「ちっ、悪鬼! 守れ!」
「グォォオオオオ!」
悪鬼は雄叫びを上げ、金棒と自らを盾に魔石の爆裂を防いだ。
「《毒魔法――解毒》……」
少しずつ毒が身体から消えていく。
「悪鬼……よくやった。戻れ。……チッ。しかし、時間切れか……。次は仕留める……!」
貫崎は荒々しい気持ちを心に刻み込む。




