四十二話 可憐な少女の誘い
その頃、美鈴と志之崎は一緒に逃げ延びていた。
「香阪さん死んじゃったのかな……?」
美鈴は照りつける太陽を見上げながら呟く。
「守護センサーだけでは分からないが、あの性格では降伏してないかもしれんな」
「そっか……」
太陽の光を反射してかキラキラと美鈴の瞳が輝いている。
「……美鈴は戦いが不安か?」
志之崎は静かに尋ねる。
「戦いは怖い……けど、負けるつもりはないよ」
美鈴は幼いながらも、芯のある目で答える。
志之崎はその様子を見て、安心感と共に〝護るべき存在〟なのではないか。そう感じた。
「美鈴、これからも一緒に行動するか?」
「うん、美鈴はそのつもりだよ」
当たり前のことを答えている口調だ。
「……美鈴は平日に小学校に行っているだろう。学校内では戦闘が起こる可能性は低いと思う。ただ、登下校や土日など行動をしている間は危険度が上がると思う」
「そうかもしれないね」
美鈴は志之崎の方に身体ごと、くるりと向き直る。
「俺は普段旅館に泊まってるんだ。洲台市に来たのも旅の途中で寄ったようなものだからな。今までは転々と旅館を変えていたのだが、一つの場所にいるようにするよ。もし合流したい時はそこに来てくれればいい。まあ、メッセージで連絡してくれてもいいがな」
志之崎はゆったりと優しい口調で伝える。
「そうだったんだね……。ねえ、シノさん。シノさんさえよければ、うちで暮らさない?」
美鈴の問いに志之崎は思わず立ち止まる。
「一緒にいれる時間を増やしたいとは思ったが、美鈴の家に厄介になる訳には……」
話している途中で美鈴が話し始める。
「大丈夫だよ! お家にはメイドのアンナさんがいるだけだし! お部屋もたくさん空いてるよ!」
明るい声が耳に入り込んでくる。
「……聞いていいことか分からないが、家族はいないのか?」
志之崎は遠慮気味に質問する。
「……そうなんだ……パパとママは二年前に死んじゃって。今はアンナさんと二人で暮らしてるの」
美鈴は悲しげな表情を浮かべ呟く。
「そうだったんだな……すまない、無礼なことを聞いた」
「ううん、いいよ。で、どうする? 一緒に暮らす? 美鈴はシノさんが一緒の方がいいな!」
美鈴は年相応にくしゃっと笑う。
「……そうだな。一緒にいれる時間を増やそうと思えば、それがいいかもしれないな」
「やったぁ! じゃあ、早速お家行こう! アンナさんにも紹介したいし」
美鈴はそう言いながら志之崎の背中を押して進んでいく。
「美鈴、旅館に服を取りに戻りたい。あと、美鈴の服も綺麗にしておくべきだろう」
「そうだね。服の汚れ取れるかな……?」
美鈴は自分の服を見回す。
そんな話をしながら、旅館に寄って服を整えた後、美鈴の家へ向かう――。




