三十三話 獣のような男
頂川と環、三人でチームを組んでから五日が経った。修行は順調だ。
そして、連続殺人事件も漆原との戦闘以降起こっていない。このまま何も起こらなければいい……そう願う。
光葵はいつもの修行場所に向かう。その途中で守護センサーが反応した。
どっちサイドの参加者だ? もしくは頂川達か……?
近づいてくる――そこに見えたのは、スキンヘッドで身長が二メートルはあると思われる、獣のような危険な雰囲気を纏う男だった。
「おいお前……あん時の奴か?」
一言その男が話しかけてくる。
「お、おう。そうだ。あんたは一人か?」
この男は倉知を殺害した男だ。警戒の意味も込めて尋ねる。
「そうだ。まあ、そもそも誰かと組むつもりもないけどな」
男は淡々と答える。
「え? 組むつもりがないのか? 代理戦争は複数人が戦うものだ。チームを組んで戦う方が勝率はかなり上がると思うけど」
光葵は思わず不思議そうな声で尋ねる。
「フンッ! 雑魚が増えても戦いにくくなるだけだ……」
男はやや不機嫌に言葉を吐き捨てる。
「……たしかにあんた強そうだもんな」
光葵は直感的に感じる。この人は仲間にしておく方がいい。
倉知殺害の件で、一般人のモラルではないことはわかっている。それでも、この代理戦争を生き抜くには強い仲間が必要だ……。
「聞きたいんだけど、雑魚じゃなかったらチーム組んでくれるのか?」
光葵は鋭く睨みを利かせて問う。
「……俺の足を引っ張らない奴だったらな……」
男の獣のような眼光が鋭く光る。
「この辺りは人通りが少ない。もう少し広い所に移動して、一度手合わせしてくれないか?」
「……構わないぜ」
人の滅多に来ない広場にて。
「じゃあ、ヤラせてもらう。勝利条件はどうする?」
光葵が尋ねる。
「勝利条件なんてもんはない……俺を満足させられるかどうか。それだけだ」
「そうか、分かりやすくて助かるよ」
あくまで、自分の方が格上って感じだな……。
「《身体強化×プロテクトフィジカル》……」
まずは、相手の出方を見るために身体全体にプロテクトを纏わせてかつ、全身の筋肉を強化する。
この男はどんな魔法を使うんだ……?
「……この間の礼みたいなもんだ。《召喚魔法》は使わないでおいてやるよ。まあ、フィジカルだけで押し負けるようじゃ、話にならんしな……。行くぞ……《身体強化》」
男は上から目線で、ただし、一切の油断なく言葉を放つ。
見ているだけで分かる。とんでもない身体能力と闘争心を持っている……。
男が突撃してくる。凄まじい敏捷性だ。でも、ここはあえて引かない……!
男のワンツーを躱す。一撃もらうだけでも致命傷になりそうだ。そのくらいの気迫がある。
「躱してばかりでは勝負にならんぞ」
男のパンチからの組み立てで廻し蹴り、膝蹴りが放たれる。
光葵はパンチと廻し蹴りは防御しつつ、膝蹴りは躱す。そして、肘打ちを脇腹に打ち込む。
「ガッ! 武術経験者か?」
男は一瞬唸り声を上げるも、すぐに息を整える。
「空手をしている」
光葵は短く返す。
「そうか……分かった。ここからは固有魔法も使いながら戦わせてもらう」
男の両手から不気味な〝紫の泥状〟の何かが溢れてくる。滴り落ちる紫の泥はアスファルトを溶かしている。
「やけに不気味な魔法だな。毒魔法か?」
「そうだ。《毒魔法》だ。触れるとそれなりにダメージが出るぞ」
ドスの利いた返答がある。
〝それなり〟と口では言っているが、明らかに危険な物だと身体が警鐘を鳴らす。
「こちらも固有魔法を使わせてもらう」
光葵はそう言い、互いにじりじりと距離を詰める。




