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【Another】星の代理戦争~Twin Survive~  作者: 一 弓爾
一章 星の代理戦争 前編

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二十九話 回復のプロ

「おい、おっさんまだ諦めんのは早いぜ」


 頂川がニヤリと笑みを浮かべる。


「えっ?」


 平田がきょとんとした顔をする。


「こっちには回復のプロがいるんだよ。なあ、治せそうか?」


 頂川は影慈の方に顔を向ける。


「もう……プロとかじゃないよ。でも、今すぐ《回復魔法》を使えば助かるかもしれない。とりあえず回復します」


 影慈は魔法の準備を始める。


「いやいや、でもそんなことして、もし僕が攻撃とかしたら……」


「おっさんの顔見てたらそんな奴じゃねぇって分かるよ。それに、俺らまだ動けるしな」


 頂川は腕を曲げてみせる。


「あはは、君達みたいな子と組みたかったよ……。申し訳ないけど、回復お願いできる?」


「大丈夫です。もう準備してます」


 そう言い、平田、頂川、影慈の順に回復していく。


「平田さん、漆原って人のこと分かる範囲でいいんで教えてもらえませんか?」


 影慈は丁寧な口調で尋ねる。


「君達は彼を探してたみたいだもんね。名前は漆原(れい)。真面目そうな子に見えて気を許してたけど、演技だったみたいだね。あ、ごめんね。知ってることはそれくらいだなぁ」


「そうですか。分かりました。ありがとうございます」


 影慈は軽く頭を下げる。


「いえいえ、こちらこそ回復ありがとう。……で、どちらに降伏すればいいかな? 僕は全力で戦ったうえで負けを認めているし、多分降伏も通ると思うけど」


 平田は真面目な表情だ。


「日下部のおかげで助かったようなもんだ。『固有魔法の奪取権』はお前が持つべきだ」


 頂川は真っ直ぐに影慈を見る。


「……金髪君がそう言ってくれるなら。平田さん……」


「ああ。日下部君、君に降伏するよ」――。




 その瞬間、意識が……いや、肉体、心、魂が〝別の次元〟に飛んで行ったような感覚になる。目の前に広がるのは〝宇宙のような所〟だ。


 そして、選択肢が用意されている。倒した相手の持っている固有魔法の種類だ。

 平田は誰も倒していないため、固有魔法の選択肢は一つしかなかった。

 《氷魔法》を選びたい、そう念じると光に包み込まれ、〝元いた世界〟に戻ってきた。




「日下部、もう終わったのか? 一秒も経ってないけど」


 驚いた様子で頂川が顔を覗き込む。


「あ、そうなんだ。固有魔法を選ぶ場所は時間軸が今いる世界とは違うのかもね」


「う~ん? 何か難しいこと言ってるな……」


 頂川は頭を捻る。


「あはは、説明するのも難しいようなことだから気にしないで」


 影慈は微笑みかける。


 そういえば、〝あの場所〟から戻ってきてからマナの存在の認知が上がった気がする。なんというか、自分の中を巡るエネルギーや、その辺にある石ころからもエネルギーの存在を感じられているような……そんな感覚がある。


 これがメフィさんの言っていた〝マナの知覚度〟が上がったということなのだろう。


「痛た……ん? なんで僕こんな所で寝てるんだ……」


 平田がむくりと起き上がる。


「おっさん、気がついたか? 降伏した途端気を失ったからびっくりしたぜ」


 頂川がすぐに声をかける。


「え? おっさんって失礼だな君……。というか、僕服ボロボロだね……。え? 何? 追い剝ぎ……⁉」


 平田は震え始める。


「おいおい、何言ってんだよ。さっきまで話してたろうが?」


 頂川は状況が飲み込めず、更に質問を繰り返す。


「こ、怖い……。まさか、追い剝ぎに遭うなんて……」


 平田は絶望的な顔をして、いつ逃げようかと準備しているようだ。


「金髪君……もしかしたら、代理戦争を降りたら〝代理戦争に関する記憶〟が消えるのかも……」


 影慈は推測を頂川に伝える。


「……なるほどな。それなら、この状況も説明がつくか……。おっさん、追い剥ぎなんてしねぇよ。倒れてたあんたを俺達が見つけたんだ」


 頂川は手早く嘘をついたようだ。


「そうです。ついさっきあなたを見つけたんですよ。道端で寝てると危ないですよ」


 影慈も優しく声を掛ける。


「……そうだったんだね。すみません……。というか、君達もボロボロだけど大丈夫?」


 平田は自分の服と影慈達の服を見る。


「僕らはさっき喧嘩してたもので……ははは。もう夜ですしお互い帰った方がいいですね」


 影慈も手早く嘘をつく。スムーズに話を進めるにはこれがよいだろう。


「そうですね。そうします」


 そう言い、平田は帰っていった。


「僕らも帰ろうか」


 頂川の方に顔を向ける。


「おう。でもあのゲス野郎、仲間を囮に爆撃して自分は逃げるとか漢のすることじゃねぇな」


 頂川は怒りを顔に出す。


「そうだね。同感だよ」


 影慈の放った魔法はかなりのマナを込めたものだった。

 実際、漆原は両腕と身体の前面に相当な熱傷を負っていた……。


 仮に回復魔法が使えないなら、少なくとも数週間はまともに動けないだろう。

 これで連続殺人が止まってくれればいいんだけど――。


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― 新着の感想 ―
こんな形で代理戦争を「降りる」ことも可能なのですね。漆原、油断できません。
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