二十八話 予想外の出来事
「ありゃ~直撃だね。どうなったかな?」
漆原の軽い声が聞こえる。
「悪ぃ、日下部……」
頂川がやや小さな声を出す。
「大丈夫だ。あいつらの戦い方はなんとなく分かってきたな……」
広範囲にプロテクトを張ったため無傷とはいかないが、大きなダメージにはならなかった。
「お! 防いだか」
漆原はどことなく楽しげな声だ。
「お前の声は耳障りなんだ。それも含めてお前の戦闘スキルって奴なのかもしれないけどな」
光葵は怒りをそのまま吐き出す。
「日下部……俺すげぇ戦いにくいんだけどさ……なんとかできねぇか?」
「そうだよな頂川、ちょっと相談してみるわ」――。
(影慈、主人格交代して頂川のサポートできるか? 俺と頂川は近接戦が得意で相性が悪い)
光葵は心の中で影慈に呼びかける。
(オーケー、みっちゃん。僕も修行したことで攻撃魔法が増えている。それに、あいつらの戦い方も何となく分かったし。やってみるよ……!)
――〝主人格交代〟瞳が琥珀色から陰のある黒へと変わる。
「金髪君、僕が君のサポートをするよ。だから、思い切って戦って! その代わり、トリッキーな攻撃が多いと思うから十分気を付けて」
一瞬、頂川がぽかんとする。
「おう! キャラチェンか! いいと思うぜ!」
頂川は親指を立てる。
「じゃあ、改めて行くぜ日下部! 《雷魔法――雷槍》……!」
頂川は雷で作った槍を投げつけながら、突っ込む。
平田が分厚い氷壁で防ぐ。接触時に轟音が響く。
「ひっ……」
平田が怯えた声を上げる。
「隙あり」
漆原が拳銃で頂川を撃とうとする。
その前に影慈が《炎の弾丸》を放つ。
「危なっ!」
漆原が躱す。
「君の攻撃は僕が全て墜とす」
影慈の瞳は漆原を捉えている。
平田の前には目をギラつかせた頂川がいる。
「さあ、ヤリ合おうぜ!」
ガタガタと震えながらも、平田は魔法を出す構えを取る。
「遅ぇよ!」
氷魔法が発動する前に平田の顔に頂川の雷を纏った拳がめり込む。
平田はそのまま少し奥の壁にぶつかり、壁にヒビを入れている。
「平田さん……!」
漆原が焦った声を出す。
「君の相手は僕だよ。新技……《合成魔法》《火炎魔法×風魔法――炎刃》!」
炎に風の速力を乗せた影慈の一撃が漆原を襲う。
「ハァァアアア!」
漆原は全力と思われるプロテクト魔法で防ごうとする。
しかし、影慈が集中して練り上げた炎刃はプロテクト魔法を打ち破り、漆原の両腕から身体にかけて炎の刃を刻み込む。
呻き声とも何とも聞き取れない声が大通りに響き渡る。
十秒ほど経ち「ハァハァ……」と漆原の荒い息遣いが聞こえる。
その後、思わぬ大声が聞こえる。
「平田ァァアアア! まだくたばってねェだろ! もうすぐだ……もうすぐで『溜め』が終わる。なんとか食い止めろォォオオ!」
大声に気を取られていた影慈と頂川だったが、すぐに平田の方へ目を移す。
平田は頭から血を流しながらも〝その目は死んでいなかった〟――。
「ついにですか……。最後の力で食い止めます。あなたの最強の魔法を見せてください……」
〝何かまだある〟そう判断した影慈達は漆原へ攻撃を仕掛ける。しかし、氷壁で阻まれる。
「邪魔だおっさん!」
頂川の雷撃が平田に直撃する。しかし、動きを止めず影慈の方へ氷弾を放つ。
影慈はプロテクト魔法で氷弾を弾く。そしてあることに気づく。嘘だろ――。
平田の足元の土が盛り上がっていることに。そして中身が時限式の爆弾であることに――。
「金髪君、すぐプロテクト! おっちゃんもできるならプロテクト張って!」
影慈が言い終わると同時に爆弾が爆発する。凄まじい衝撃が発生する――。
どれくらいの時間が経ったのかも分からない。だが、自分が生きていることは何とか分かった。身体中に痛みを感じたからだ。
「大丈夫か? 日下部のおかげで助かった。あの野郎、爆弾仕掛けてやがったのか。しかも、仲間の足元に……」
頂川は信じられない気持ちと怒りを混じらせた声だ。
「うん…………。あ、そうだおっちゃんは……?」
すると、平田の唸り声が聞こえてくる。よかった生きてる……。
「おい、おっさん。あいつ仲間じゃなかったのか?」
十秒ほど経つ。
「……ぐ、うぅぅ。漆原君は……最初から……このつもりで……?」
平田は未だに自分の身に起こったことが信じられていないようだ。
「…………君達、僕も一緒にプロテクトで守ってくれたよね……? 最初信じられなかったけど、君達の顔を見てたら何となく分かったよ。ぐぅ……多分僕はもう死ぬ。君達どちらかに『降伏』するよ。どっちがいいかな?」
平田は死を悟ったような顔で影慈達を見上げる。




