百二十五話 夜月影慈 父との別れ②
「俺からは話すことがある。聞いてくれ! 俺は母さんが死んだあの日から、生きる理由を失った。それほど、母さんを愛してたんだ。その寂しさ、どうしようもなさを影慈にぶつけてしまっていた。本当にすまなかった! 俺は大切にしないといけない人が近くにいるにも関わらず、過去にばかり囚われていた……」
父は懺悔するように声を上げる。
「そう……」
影慈は短く応じる。
「影慈……本当にすまない。こんなことを言う資格がないことは分かってる。でも、言わせてくれ、影慈。お前のことを愛している。いや、愛させてほしい……!」
父が本気で思っていることが伝わってくる声色だ……。
「……もっと早く聞きたかったよ……。お父さん。僕からも一つだけ言わなきゃいけないことがあることを思い出したよ」
「なんだ……?」
父が影慈の目を真っ直ぐ見る。
「僕を生んでくれてありがとう。今までの人生は正直、辛いことの方が多かった。それでも、この辛い感情や、みっちゃんと一緒にいることで感じられた楽しい感情はこの世界に生まれてなかったら、知れなかったことだ……」
そう、生まれていなかったら、何も感じることはなかったのだ……。
辛いことも、楽しいことも……。
「影慈……」
父は声を震わせている。
「僕は今、生きていてよかったと満足している。これから、地球を守っていくお役目があるのも楽しみだ。この経験や感情を感じられるのはお父さん、そしてお母さんのおかげだ。だから、ありがとう。お父さん……」
影慈は自分でも、こんなことを言えるとは思っていなかったため、正直驚いている。
それでも、様々な経験をして最終的にこう思ったのは事実だ。
「影慈……。ごめん。ごめんな。俺は、父ちゃんは……そんな影慈のことを蔑ろにした。後悔してもしきれない。影慈……もし叶うなら、父ちゃんの記憶そのままにしてくれないか……? 父ちゃんは影慈のことを忘れたくない。影慈に今までしてきたことを背負って、償いながら生きていきたい。……ダメか……?」
父は泣きながら、頼み込んでくる。
「……お父さんは記憶をそのままにして生きて、どうしたいの?」
影慈は単純に疑問を口にする。
「さっきも言ったろ。影慈にしたこと、いや、俺の知る影慈を全て持って生きていきたい。必ず、人の役に立つ。人を助ける! だから、記憶と痕跡を消さないでくれ……! 頼む!」
父は頭を下げる。
「……ほんとに人の役に立って生きていくと誓える……?」
「誓う。命を懸けてもいい!」
「そう……。分かった……」
「影慈、最後に父ちゃんのわがまま聞いてくれないか……?」
父の視線が影慈を射抜く。
「……どんなわがまま……?」
影慈もその視線に応える。
「一度だけでいい、抱きしめさせてくれ。嫌だったら握手でもいい。影慈の存在を感じさせてくれ! もう二度と会えないんだろ? 頼む!」
父は声のボリュームが上がる。
きっと、心の底から思っていることなのだろう。
「……抱きしめられるのなんて、小学生以来だね……」
影慈は静かに呟く……。
「影慈……!」
父は影慈を強く抱きしめる。
「ごめん、ごめんな。影慈。俺は必ず変わると約束する……!」
父は泣きじゃくる。
「……久しぶりの感覚だ……。不思議と少し安心するね……」
影慈は微笑む。
「影慈ぃ……。俺の子どもになってくれてありがとう。本当にありがとう……!」
「こちらこそ、僕の父親になってくれてありがとう……」
影慈はそっと抱きしめ返す。
◇◇◇
影慈は忘れることはない。代行者となったとしても、父が懸命に生きていることを。そして、自分が生きてきた証を覚えてくれていることを……。
最終話まで読んでくださり、ありがとうございます!
自分自身、かなりの熱量を込めた作品ですので、色々と考えるきっかけにしていただければ嬉しい限りです!
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続きの物語「マナの天啓者」も執筆済です。
今作の10年後のお話です。よろしければ、読んでみてください!
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それでは、ここまで応援してくださった、皆様本当にありがとうございました!!




