百二十二話 日下部 光葵 両親との別れ①
光葵と影慈は星の代理戦争に勝利し、〝代行者〟となった。
その後、光葵の両親に別れを告げにいく物語。
◇◇◇
「家に帰るのも本当に久しぶりだな」
光葵は家の前で呟く。
(星の代理戦争に参加して大体三ヶ月半だもんね。ほんとに色々あったね……)
影慈は感慨深そうに、言葉を紡ぐ。
「そうだな。でも、なんとか最後まで生き抜けてよかった。……守りきれなかった人も多かった……。それでも、綾島さん、比賀さんは生きていてくれた。それに、俺自身、影慈も生き残れたことが嬉しいよ」
(そうだね。……その通りだよ! 僕はみっちゃんと一緒に生き残れてよかった! これからも一緒だし!)
影慈は嬉しそうに話す。
「ああ、そうだな! 俺はすぐ頭に血が上るし、知恵が足りない時も多い。これからも、マジでよろしくな! 影慈!」
(もちろん! これからもよろしくね! みっちゃん!)
光葵の中に和やかな感情がどんどん湧いてくる。
◇◇◇
光葵家にて。
「ただいま……」
光葵は思わず、小さな声で玄関に入る。
すると、バタバタと足音が聞こえてくる。
「光葵! 帰ってきたのね! もう! 連絡くらいしないさい!」
母が怒りつつも、嬉しそうに声を上げる。
「お父さん! 光葵が帰ってきたわよ! ねえ、お父さん!」
母が大声で父を呼ぶ。
「ちょ、母さん。そんな大声出さなくても……」
「何言ってるの、光葵。息子が帰ってくることが、どれほど嬉しいかも知らずに!」
母は少し怒っている。
光葵は罪悪感がだんだんと湧いてくる。
今から両親に話すことが、〝最後のお別れ〟なのだから……。
◇◇◇
父も揃ったことで、リビングで話をすることとなった。
「光葵、本当に久しぶりだな! 光葵が出て行って、二か月半くらいだぞ。全く! まあ、約束したように毎日無事かどうかの連絡はくれてたから、よかったけど……。父さんも母さんもすごく心配だったんだぞ……!」
父は怒っているというより、息子と会えて嬉しいということが伝わる表情だ。
「ごめん、父さん。母さんも。本当にごめん。でも、俺のことを信じて送り出してくれて、ありがとう!」
光葵は今までずっと思っていたが、言えていなかったことを言葉にする。
「本当に心配ばかりかける子なんだから……。でも、帰ってきてくれてお母さん嬉しい。若菜のこと、心の整理はついたの……?」
母の表情から、悲しみを抑えようとしているのが見て取れる……。
「若菜のことは。その…………。」
光葵が、若菜は自分のせいで死んでしまった、と伝えようとするのを影慈が止める。
(みっちゃん! それは違う! 絶対にみっちゃんは悪くない! それに、今日はご両親にお別れを言いにきたんでしょ? ここで言う話じゃない……)
影慈が悲しげに光葵の考えを止めてくれる。
(悪い、影慈。俺はまだ、やっぱり自分を責めちまう……。でも、それを今言うのは違うよな。……ありがとな。ちゃんとお別れを言うよ)
光葵は念じることで、影慈に返答する。
影慈には本当にいつも、助けてもらってばかりだ……。
「母さん……。俺達もまだ気持ちの整理がついてないんだ。光葵にそんなこと聞くのは酷だ。気にするな光葵! お前が帰ってきてくれるだけで、父さんは嬉しくて……嬉しくて……」
父は話している途中で涙が止まらなくなっている。
「お父さん……。そうね……。私も同じ……。光葵帰ってきてくれて、ありがとう……」
母も大粒の涙をこぼす。
「……父さん……母さん……。俺……俺……。ごめん。ごめんな……」
光葵は両親に抱きつく。
「いいんだ。光葵。お前がいてくれれば。本当にそれだけでいい……。父さんはずっと味方だ。安心しろ光葵……」
父は何度も光葵の頭をなでる。
「お母さんもよ……。お母さんは光葵が大事。ずっとずっと味方よ……」
母は身体を何度もさすってくれる。
「うっ……。父さん……母さん……。俺は……。……ありがとう父さん。……ありがとう母さん」
ダメだ。涙が止まらない。俺はこんなに愛されてたんだな……。




